ヒットメーカーの舞台裏

2010年3月2日

»著者プロフィール
著者
閉じる

池原照雄 (いけはら・てるお)

ジャーナリスト

1950年生まれ。専門紙や全国紙の経済記者として自動車、エネルギー、金融、官庁などを担当。00年からフリーになり幅広い執筆、講演活動を展開。著書に「トヨタVSホンダ」(日刊工業新聞社)、「図解雑学 自動車業界のしくみ」(ナツメ社)など。

 ビール風味飲料では世界で前例のなかったアルコールゼロを実現、運転する前に飲んでも全く支障がない。ドライバーだけでなく、病気のためにアルコール摂取を禁じられている人や妊婦にも歓迎されている。2009年4月の発売時には同年末まで63万ケースの販売計画を立てたが、上方修正を繰り返し、400万ケースにも達した。この種の飲料は08年の全販売量が250万ケースであり、「キリンフリー」は新市場を創出したかたちだ。

運転する前に飲んでも問題なし。アルコールゼロのビール風味飲料「キリンフリー」

 従来のビール風味飲料は、「酒」には分類されないものの、アルコール分が0.5%といった具合に微量含まれている。アルコール分が1%未満だと「酒」に該当しないという、あくまでも酒税法上の分類だ。このため、メーカー側には運転しても大丈夫と太鼓判は押せない「灰色」の存在だった。

 ならばアルコールゼロで堂々と「運転OK」をアピールできる飲料を開発しようと、キリンが挑んだ。商品企画をリードしたのは、営業本部内にある商品開発研究所新商品開発グループの梶原奈美子(28歳)。経営学を専攻して「モノづくり」に従事したいと04年に外資系の化粧品会社に入社した。しかし、この会社では日本固有の商品開発が徐々に細ってきたこともあり、06年秋にキリンに転じた。

 入社直後、カクテル飲料に参入するプロジェクトに参画、翌年には初めての商品を世に送り出すことができた。「フリー」の商品化は梶原にとっては第2弾であり、道路交通法の改正で飲酒運転への罰則が強化された07年秋に始まった。

 キリンはアルコール分が0.5%のビール風味飲料を03年から販売していた。顧客センターには「飲んで運転しても大丈夫か」といった問い合わせが常時相当数あり、梶原らはアルコールをゼロにしたものへの潜在需要を感じ取っていた。

キーワードは「社会貢献」

 よりビールに近い味や風味を再現してアルコールはゼロに─という方針のもと、飲料そのものの調合などを担当する開発セクションも試作に着手した。だが、これは至難の技だった。ビールは、麦汁とホップに酵母を加えてアルコール発酵させることで、独特の苦味や風味ができる。

 アルコールをゼロにするため、開発チームは発酵なしの製法を選択せざるを得なかった。そのことは味や風味をビールから遠ざけることを意味する。ビールには確認しているだけで数百種類もの香り成分が含まれている。多くが発酵の過程で生まれるのだという。従来のビール風味飲料は、発酵の度合いを少なくするか、発酵させた後にアルコール分を熱で飛ばす製法が採用されてきた。このため、1%未満ではあってもアルコール分が残っていたのだ。

関連記事

  • PR
  • 新着記事

    »もっと見る