世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2016年11月24日

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 鄧小平以来最強の指導者と言われる習近平だが、広大で多様な中国を変えるのは容易ではなく、特に手強いのが地方政府だ、と10月22日付の英エコノミスト誌が言っています。要旨は、以下の通りです。

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 指導部人事が発表される5年毎の党大会を来年に控え、習近平は二つの敵と戦っている。一つは北京にいる政敵、もう一つは、独自に動きたい地方政府だ。

 時には、習が重要と宣言した政策でさえ実行されない。習は、今年の経済の重点課題は鉄鋼と石炭産業の縮小だと言明したと言われ、実際、政府は2月に5年間で鉄鋼1~1.5億トン、石炭5億トンの減産を発表した。ところが、2月以降も鉄鋼生産量は前年同月を上回り、結局、7月時点で計画は半分しか達成されなかった。地方企業は政府の指令よりも市場を重視しがちであり、地方政府は鉄鋼産業がもたらす税収に関心があるからだ。それに、工場が閉鎖になれば、地方銀行は多額の貸付が回収不能になり、労働者は仕事や住む家を失い、社会不安が生じかねない。

 国民が強く求める食品安全も、政府の改善の約束にも拘らず、進展していない。地方当局には改善の能力や意思、あるいは規制を行う財政的インセンティブがないからだ。5月に発表された土壌汚染除去の全国計画も、地方が実行するのは無理だと北京の当局者が内輪で認めている。

 この問題には、党の自業自得という面もある。1970年代後半以降、北京政府は意図的に意思決定を地方政府に大幅に委譲し、大規模プロジェクトは地方が始めるよう促した。おかげで経済の機動性と適応力は高まったが、反面、トップダウンの意思決定が難しくなり、改革の足を引っ張る「細分化された独裁制」が出現した。

 その上、地方では、政府の意思決定は、社会の安定が脅かされない限り、次第に政治よりも市場原理に左右されるようになってきた一方、多くの国営企業が崩壊し、民間企業が興隆する中、かつて全能だった党下部組織が弱体化した。だからこそ習は政治に主導権を戻したい。

 反腐敗運動も、習が自らの支配を固め、党の規律を強化することが目的で、何万もの役人が汚職で罰せられた。また、習は地方役人に説明責任の観念も植え付けようとしている。最新の五ヵ年計画では、環境破壊を引き起こした役人が初めて責任を問われることになった。今、政府は、裁判所の判決を無視し、あるいは党の政策を守らない役人は罰すると言い始めている。

 しかし忠誠心は法律で確保できない。習は、公然と反対はしないが行動もしない、という地方エリートの「ソフトな抵抗」に遭っていると言われる。

 来年の党大会を準備する六中全会は、少なくとも中南海での習の立場を強化してくれる可能性はある。党大会後は7人の党政治局常務委員の内5人、その他の政治局員18人の内6人が引退する予定だ。党大会は、習が自分の味方を政治局に入れるチャンスだ。

 その中の誰が習の後継者になるのか、それについても様々な臆測がなされるだろう。一部の専門家は、習の念頭には後継者の事はなく、この党大会軽視の姿勢は習の自信の表れだと見る。しかし、あるいは習はまだ後継者の育成を始めたくないのかもしれない。だとすると、習は中央でも省レベルでもまだ自らの支配力に不安を抱いており、従って、彼の「中国の夢」は他の誰にも託せないということかもしれない。

出 典:Economist ‘Chairman of everything, master of nothing’ (October 22, 2016)
http://www.economist.com/news/china/21709005-changing-china-tough-even-man-xis-powers-xi-jinping-strongman-does-not

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