英国の独立系と呼ばれる電力・ガス小売専業のGBエナジーが、11月26日に供給を停止した。いま供給を受けている16万の顧客への供給を継続するため事業者が電力ガス市場規制局により選定されたので供給は確保されているが、顧客は新事業者からの供給の切り替え時点に合わせ自宅のメータを読む作業を強いられるなど、結構面倒なことがあるようだ。
1990年に電力業界の自由化を開始した英国では、1999年に小売の完全自由化が行われたが、その結果起こったことは供給の寡占化だった。大手6社と呼ばれる発電から小売まで行う事業者のシェアが上昇し、2000年代半ば以降家庭向け小売市場のほぼ100%を占めるようになる。
自由化により寡占化が進んだ皮肉な結果を受け、エネルギー市場の管理当局は独立系と呼ばれる新ガス・電力会社に小売市場への参入を促し、競争環境を作り出すことに努めた。その結果2012年以降13社が新規にエネルギー市場に参入した。破綻したGBエナジーもこのうちの一社だった。
市場に参入した新規参入者は、市場シェアを獲得するために既存のガス・電力会社よりも安い料金を提供したが、これが首を締める原因になった。日本でも360社を超える新電力が登録されているが、やがて英国と同様のことが起こる可能性がある。なぜ、新規参入者は供給停止に追い込まれたのか、その理由を見ると、日本の自由化市場の将来像が見えてくる。
エネルギー価格上昇により活性化した電力小売市場
1990年の市場自由化により、英国では天然ガス火力設備の導入が活発になった。北海から産出される自国産の天然ガスが競争力のある価格で提供されたことも大きかった。しかし、一時は輸出を行うほどの生産量であった北海からの天然ガス生産は21世紀の初頭にピークを打ち、急速に生産量を減らした。いまは需要量の半分程度を賄うだけだ。
北海からの天然ガス供給の減少に合わせ、英国内の天然ガス価格と電気料金は2000年代後半から上昇を始める。図-1に電気料金の推移を示した。2013年冬にはエネルギー価格の上昇が社会問題にもなり、野党労働党党首がエネルギー価格の凍結を総選挙の公約として持ち出すほどになった。(プーチンに脅され、市場に裏切られ凍える英国 )
エネルギー価格の上昇を懸念した英国政府は、天然ガスと電力市場に新規参入者を増やし、消費者に大手6社から価格競争力のある新規参入者の料金への切り替えを促すことにより、エネルギー価格の引き下げを図った。2014年後半からのエネルギーコストの下落もあり、新規参入者は競争力のある料金の提供に成功する。
破綻したGBエナジーは、その中でも最も価格競争力のある一社だった。2015年10月には「ガーディアン紙」が、「2012年以降初めて年間800ポンド(約116000円)を切る料金が登場した」としてGBエナジーの新プランを紹介している。同社の料金プランと大手6社の標準的な料金との比較も紙面で行なっているが、最も高いNpower(独RWE系)の料金との比較では年間310ポンド(45000円)も安くなるとしている。新規参入者は順調にシェアを獲得し、2016年第2四半期には、大手6社の家庭向けシェアは86%まで低下した。