チャイナ・ウォッチャーの視点

2016年12月23日

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西本紫乃 (にしもと・しの)

北海道大学公共政策大学院専任講師

1972年広島県生まれ、広島大学大学院博士後期課程単位満了退学、元外務省専門調査員(在中国日本国大使館)。著書『モノ言う中国人』(集英社新書、2011年)。

一年ぶりの北京で見た小さな変化

 12月中旬、筆者はほぼ1年ぶりに北京を訪れた。北京の空港の入国審査場の雰囲気が数年前とは様変わりしているのに気が付いた。外国人は入国審査のために数少ないカウンターの前で長蛇の列に並ばなければいけないのに対し、中国人は自国民用のカウンターはたくさん設けられていて、待ち時間なしで通過できる。もちろん、こうした変化は、近年、対前年比20%以上の伸びを続ける中国人の海外渡航者の大幅な増加にあわせたものだろう。それと同時に、中国政府の「チャイナ・ファースト」への転換の一つの現われなのかもしれない。従来、中国は外国人を「外賓」と呼び、自国民よりも優先してきた。外国人に対する配慮は中国の国としての面子を保つためであった。もはや途上国でなくなった中国にとって、外国に対して良い顔をする必要はなくなりつつある。それよりもむしろ、中国政府にとって国民に不満を抱かせないことの方が大事になっているのだ。

 北京では12月16日夜からほぼ一週間、PM2.5が連日300μg/m3を超える深刻な大気汚染が続いた。最近では大気汚染による靄がひどくなりそうなときには、北京市が事前に警報を出して市民に注意を促すようになっている。携帯電話のニュースアプリでの情報発信の他にも、地下鉄の構内で「明日は大気汚染警報が発令されています。市民のみなさんは健康維持のために自己管理に努めてください」とのアナウンスが繰り返し放送されるなどしている。一部の報道では、中国では過去10年間で肺がんの発症率が43%増加し、若い世代の発症者が増える傾向にあると伝えられ、人々の大気汚染に対する潜在的な不安と不満は大きい。ここ数年ずっと行政による大気汚染対策の有効な手立てがない中で、北京市の市民向けの注意喚起は市民の怒りの矛先を政府に向けないようにするくらいの効果しかない。

最も深刻度の高い「赤色警報」が再び発令された北京(写真:Imaginechina/アフロ)

 政府の市民への配慮が以前より感じられるようになった一方で、「党の言うことを聞き、党と共に歩む」というスローガンを北京の街中でも見かけるようになった。共産党がスローガンに掲げることは、現実がそうでないことを反映しているが、この時代にそぐわない感じのするスローガンは、2013年の習近平政権スタート以降、現政権の党の指導力強化とイデオロギーの引き締めが進められるのにあわせて、地方都市でちらほら散見されるようになっていた。このスローガンが、まさか北京のような大都市でも掲げられるとは、少し驚きである。

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