チャイナ・ウォッチャーの視点

2016年5月30日

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西本紫乃 (にしもと・しの)

北海道大学大学院公共政策学連携研究部付属公共政策学研究センター研究員

1972年広島県生まれ、広島大学大学院博士後期課程単位満了退学、元外務省専門調査員(在中国日本国大使館)。著書『モノ言う中国人』(集英社新書、2011年)。

 5月27日、オバマ大統領が広島を訪問した。個人的なことを少し申し上げるなら、祖父母から原爆の話を聞いて育った私は、すでに他界した被爆者の親族を想いつつオバマ大統領のメッセージに胸が熱くなった。私と同じような思いを抱いた人もたくさんいるだろう。

 オバマ大統領の訪問について広島ではほとんどの人が「謝罪を求めない」のは、原爆を直接体験した人が少なくなっていることも一つの要因だろう。今を生きている私たちにとって、オバマ大統領の広島訪問を機に、世界で反核の機運が高まることへの期待の方がはるかに大きい。原爆投下から71年後のオバマ大統領の広島訪問、それは原爆をめぐる「具体的な戦争の記憶とそれに対する謝罪」を求める声が「抽象的な平和という理念の追求」に転換した歴史的瞬間であった。

 「具体的な記憶」は特定の集団内で共有されるストーリーで「主観的に語られるもの」であるが、「抽象的な理念」は世界中の誰もが受入れることが出来る「普遍的な価値」である。ぜひ日本政府には今回のオバマ大統領の広島訪問を弾みとして、「核兵器のない世界」と平和に向けた積極的な行動を期待したい。

中国では事実が歪められて報道

GettyImages

 「核兵器のない世界」と平和を歓迎する広島の民意について、残念ながら中国では事実が歪められて伝えられた。新華社や人民日報は、訪問を反対するグループの街頭活動やインタビューがことさら大きく伝え、オバマ大統領の広島訪問を日本国民があたかも歓迎していないかのような報道ぶりだった。27日、王毅外相も記者からの質問に対して「広島も重視すべきだが、南京も忘れてはならない。被害者は同情に値するが、加害者は永遠に自らが背負う責任から免れることは出来ない」と答え、オバマ大統領の広島訪問が評価されることに釘を刺した。「普遍的な価値」に理解を示すのではなく、南京事件という「具体的な記憶」を改めて持ち出したのだった。いわば自国の「主観的な語り」を貫こうとしている。

 「南京も……」と語った王毅外相の発言は、特に準備されたものというよりは地方政府のグローバル化推進のイベントの場で記者の質問にその場で答えたものだ。なので、そこだけを大きく取り立てるのも、バランスを欠いてしまうかもしれないが、紋切り型の歴史認識問題を持ち出して言い捨てるかのように日本を牽制せざるを得ない、中国の外交の当事者らの手詰まり感がにじんでいるようにも感じられる。

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