チャイナ・ウォッチャーの視点

2016年5月30日

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西本紫乃 (にしもと・しの)

北海道大学大学院公共政策学連携研究部付属公共政策学研究センター研究員

1972年広島県生まれ、広島大学大学院博士後期課程単位満了退学、元外務省専門調査員(在中国日本国大使館)。著書『モノ言う中国人』(集英社新書、2011年)。

 さて、周辺国や欧州先進国との関係がますます気まずくなってきている中国だが、アグレッシブな外交姿勢を見せた昨年、一昨年に比べると、今年はずいぶん静かだ。2014年の春のシーズンには習近平主席はオランダ、フランス、ドイツを訪問しているし、2015年春にはカザフスタン、ベラルーシ、ロシアを訪問し、モスクワで第二次大戦の戦勝70周年記念パレードに参加している。習近平主席はロシアから帰国した直後にはインドのモディ首相を中国に迎え、中印の結び付き強化を印象付けた。また、昨年の同じ時期には、李克強首相も中南米を訪問し、ラテンアメリカ・カリブ経済委員会(ECLAC)で演説を行い、これまで中国とのつながりが薄かった中南米地域に存在感を示した。

 今年はどうかというと、3月に習近平主席がチェコを訪問し、その後ワシントンで開かれる核安全保障サミットに出席するために米国を訪れオバマ大統領と会談した。この時の米中首脳会談は南シナ海問題などでの米中の意見対立をめぐりかつてないほど気まずい雰囲気の中で行われた。各国の中国に対する不信感が高まるなか、今年の春はこれ以外に特に目立った外交活動は行っていない。

習近平の関心は、外交<国内<党内

 「習近平の意向がすべて」であるので、現状の打破も習近平主席の腹案次第だが、習近平主席自身は今、外交よりも国内のこと、それも党内のことにより関心が向いているのかもしれない。

 中国は来年秋に5年に一度の党大会を控えている。第19期の中央政治局委員の人選をめぐる人事の駆け引きは今年から水面下で始まり、様々な思惑が入り乱れる中で「政治」が展開していくことが予想される。つまり、これから来年にかけて中国の政治の世界で外交は二の次になってしまう可能性が高い。

 中国の外交の担当者や論客らが各国を「切って捨てる型」で批判するのは、自国の国際社会における立場の悪化とそれに対する打開策がない中で、それでも習近平主席の意向に沿った行動が求められているというジレンマからもたらされているのではないだろうか。

 南シナ海について中国は「古来より中国の領海だった」と「主観的に語る」ことを続けている。また、経済的なパワーを武器に昨年、一昨年は世界中に影響力を拡大しようとしてきた。これもまた経済的な魅力があれば相手も自分の側につくという主観的な見方にもとづいて各国との関係構築を行ってきたわけだが、経済の雲行きが怪しくなってきた今、かつてほどの勢いは失われつつある。

 「責任ある大国」を自らもって任ずるのが習近平政権の外交スタイルだが、「責任」がなにかはリーダーの主観で決まる。「力のあるリーダーのいうことがすべて」というのは中国国内の常識かもしれないが、こうした価値観は世界の常識とは相いれない。中国の現政権と国際社会との価値観のズレが中国の国際社会における立場をますます気まずいものにしている。
  
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