前向きに読み解く経済の裏側

2017年1月30日

»著者プロフィール
閉じる

塚崎公義 (つかさき きみよし)

久留米大学商学部教授

1981年、東京大学法学部卒業後、日本興業銀行(現みずほ銀行)に入行。主に調査関連部署に勤務した後、2005年に銀行を退行して久留米大学へ。著書に『増補改訂 よくわかる日本経済入門』(朝日新書)、『老後破産しないためのお金の教科書』(東洋経済新報社)、『世界でいちばんやさしくて役立つ経済の教科書』(宝島社)、『なんだ、そうなのか! 経済入門』(日本経済新聞出版社)など多数。

 東芝の粉飾決算と巨額赤字が話題となっている中、平成29年1月19日の全国銀行協会の会長記者会見の席上、三井住友銀行頭取でもある國部毅会長は、同行頭取の立場として「基本的なスタンスとしては、我々メインバンクとして可能な限りサポートをしていくつもりだ」と発言しています。債務超過に陥るかもしれないと言われている企業を、銀行は本当にサポートするのでしょうか? 今回は、銀行が困難に陥った取引先を支援するインセンティブについて考えてみましょう。

(iStock)

銀行自身の直接の損得として救済するインセンティブあり

 借り手が債務超過に陥った時には、借り手を倒産させて清算するのが一般的でしょう。資産をすべて売却して代金を債権者間で平等に分配するのです。そうしないと、一部の債権者が独自に債権回収を進め、他の債権者との間で不公平が生じかねないからです。しかし、何事にも例外があります。

 債務超過であっても、銀行が「銀行は借り手に返済は求めない」と宣言すれば、他の債権者も落ち着いて通常の取引を続けることができ、結果として銀行の回収額が借り手を清算した場合よりも多くなる場合があるからです。

 借り手が一時的な苦境から立ち直って再び黒字を回復する可能性が高い場合は理解できるとして、黒字を回復する見込みが乏しい場合であっても、場合によっては支援した方が得な場合もあるのです。

 借り手が清算されると、借り手の所有する設備機械がスクラップ業者に二束三文で買い叩かれることになります。それならば、借り手を「生かさず殺さず存続させて、少しでも多く返済させる」方が銀行として合理的だ、というわけです。借り手は、赤字でも減価償却前黒字の分だけ返済可能なはずだからです。

 経済初心者向けに解説しておきます。資産が90億円、負債が100億円という会社があったとします。しかも、当社は毎年の決算が1億円の赤字だとします。資産は毎年9億円ずつ10年間にわたり減価償却されていくとします。債務超過で赤字の会社ですが、この会社を生かしておくと、銀行は80億円の回収が可能です。

 9億円の減価償却を行なった後で1億円の赤字ということは、減価償却前には(減価償却をしなければ)8億円の黒字だと言うことです。減価償却は、損益には関係しますが、キャッシュフローには関係しないので、キャッシュフロー的には毎年8億円の返済が可能なのです。

 言い換えると、材料等のコストより8億円高い値段で製品が売れたけれども、決算時には減価償却(機械設備が古くなってすり減った分を費用と考える、というイメージ)をする必要があるので、赤字決算となる、というわけです。決算が赤字だといっても、コストより高く売れた分の8億円は借り手の手元に残りますから、その分は銀行に返済することができるわけです。

 設備機械をスクラップ業者に売っても80億円にならないと判断すれば、銀行としては回収を急がず、減価償却前黒字の金額だけ毎期回収していくことになります。

 銀行としては、借り手を清算せず、債権の一部を放棄した上で、借り手に身売りしてもらう(同業他社などに買収してもらう)という選択肢もあるでしょう。これは、銀行にとっても日本経済にとっても、会社が清算されてしまうより、遥かにマシです。設備がスクラップされないことに加えて、会社が持っていたノウハウや顧客リストといった、決算書に表れない資産が散逸せずに残るからです。

関連記事

  • PR
  • 新着記事

    »もっと見る