前向きに読み解く経済の裏側

2016年12月31日

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塚崎公義 (つかさき きみよし)

久留米大学商学部教授

1981年、東京大学法学部卒業後、日本興業銀行(現みずほ銀行)に入行。主に調査関連部署に勤務した後、2005年に銀行を退行して久留米大学へ。著書に『増補改訂 よくわかる日本経済入門』(朝日新書)、『老後破産しないためのお金の教科書』(東洋経済新報社)、『世界でいちばんやさしくて役立つ経済の教科書』(宝島社)、『なんだ、そうなのか! 経済入門』(日本経済新聞出版社)など多数。

 最近、働き方改革との関連で、日本の生産性の低さを嘆く記事をしばしば見かけます。生産性を計測する方法に問題があるため(たとえば日本では電車を時刻通り動かすために保守点検業務を必死に行っているのに、それを評価していないなど。)、嘆くだけの記事をそのまま認めるわけには行きませんが、それを除いても、生産性が低い部分が多い事も事実です。

 ようやく近年、少子高齢化と景気回復により労働力不足となり、企業に省力化投資を進めようといったインセンティブが高まりつつあり、生産性向上への明るい兆しが見えて来ています。

(REUTERS/AFLO)

 そこで発生したのが今回の電通事件です。事件自体は悲惨でしたが、日本経済全体への影響を考えると、この事件が、上記の流れを加速し、決定付ける可能性は大きいと思われます。

 社長が辞任したとなれば、日本中の企業で多くの経営者が、「我が社でも違法残業をしていると自分の首が飛びかねない」という恐怖を味わっていることでしょう。これにより、各社が残業削減に取り組むとすれば、生産性が高まらざるを得ません。加えて、違法残業をしていない企業の生産性も高まるでしょう。違法残業をやめるために各社が雇用を増やすことにより、日本全体の労働力不足が一層深刻化していくからです。

今回は、この点について考えてみましょう。

労働生産性を阻害している要因は主に3つ

 日本の労働生産性を阻害している要因は、たしかに存在しています。それらが取り除かれれば、日本の労働生産性はさらに上がるでしょう。

 第一の要因は、文字通り無駄な仕事が多いことです。長時間労働を美徳と考える企業文化が、付き合い残業を多発させているかも知れません。年功序列制度によって無能な人が管理職になって部下に無駄な仕事を命じているかもしれません。コンセンサスを重視するばかりに、無駄な会議が増えているかも知れません。これについては、簡単には減らないと思いますが、残業規制が強まってくれば、おのずと工夫や見直しが行われると期待しましょう。

 第二の要因は、今まで労働力が余っていたので、企業に省力化のインセンティブがなかったことです。この点については、労働力不足の深刻化によって省力化投資が増えていくでしょうから、楽観的に考えて良いと思います。

 第三の要因は、日本企業が過剰サービスやゼロサムゲームに労力を費やしていることです。たとえば顧客の細かい好みに対応するため、多品種少量生産が行なわれ、これにより生産ラインや輸送、小売等々で多くの労働力を必要としているかも知れません。これを過剰サービスと認識して、生産品目を減らして大量生産に切り替えることで、生産、配送、小売要員が少なくて済み、生産性が大幅に上昇するかもしれません。

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