2024年4月25日(木)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2017年3月13日

 豪国立大学のヒュー・ホワイト教授が、2月9日付ニューヨーク・タイムズ紙掲載の論説で、トランプ政権のアジア政策の下では、豪州は次第に中国のアジア太平洋地域での指導的地位を黙認するようになるだろう、と述べています。要旨、次の通り。

(iStock)

 トランプ大統領と豪州のターンブル首相との電話会談(注:トランプが、米豪間の難民受け入れ合意を「史上最悪の合意」と評し、電話会談を一方的に切り上げた)で、豪州人はもはや米国を信用できないと考えるようになった。トランプ大統領の振る舞いの結果、豪州は米国から離れ、中国により近づくだろう。

 オバマの中身のない「アジアへの軸足移動」により、豪州は米国には戦争によることなく、たくみに中国の野心に抵抗する決意があるとの信頼感が揺らいだが、トランプはその信頼感をさらに揺るがせた。

 これは豪州の望むところではない。基本的価値観で豪州ほど米国に近いと感じる国は無い。
しかし、中国は豪州にとって経済的に極めて重要である。中国に対する輸出は対米の5倍である。

 中国は経済力の増大に伴い、アジア・インフラ投資銀行(AIIB)の設立や、東、南シナ海への軍事的進出など、米国に代わってアジアの指導勢力になろうとしている。

 豪州は米国が毅然として中国の挑戦に立ち向かうことを望んだが、オバマ政権の対応はなまぬるいものであった。特にオバマ政権がTPPの意義を議会に説得できなかったのは最悪であった。
中国は、他のすべてのアジア諸国にとってと同様、豪州の経済的将来にとって最も重要で、中国との良好な関係は豪州の将来にとって肝要である。中国との外交的不和は、それがいかなるものであるにせよ豪州の経済に破滅的な結果をもたらすとの恐れが抱かれている。

 米国と中国の間でバランスを取ることは、誰が米国の大統領になるにせよ難しい課題であったろうが、トランプの登場で、選択は一層深刻な問題となった。トランプの下で米中間に危機が訪れる恐れがあるし、米国第一主義は長期的にアジアで米国の指導的地位が維持されない可能性がある。

 ターンブル首相との接し方を見ると、豪州の利益を守るように中国に対処してくれるとは思えない。

 豪州は中国との関係を犠牲にしてまで米国を支持するリスクをとれない。豪州が中国の同盟国になるというわけではないが、豪州は暗黙の裡に中国がアジアの指導者となることを認め始めるだろう。このようにして長年にわたった米国のアジアでの指導的地位は終わりを迎える。

出典:Hugh White,‘Trump Pushes Australia Toward China’(New York Times, February 9, 2017)
https://www.nytimes.com/2017/02/09/opinion/trump-pushes-australia-toward-china.html


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