ビジネスにも効く!アニメ監督のマネジメント術

2017年4月7日

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藤津亮太 (ふじつ・りょうた)

アニメ評論家

アニメ評論家。'68年、静岡県生まれ。'00年からフリー。アニメ作品・アニメ業界への取材を行っている。著書に『「アニメ評論家」宣言』(扶桑社)、『チャンネルはいつもアニメ』(NTT出版)、『声優語』(一迅社)、『ガルパンの秘密』(廣済堂新書、執筆は一部)などがある。TV番組に出演したり、複数のカルチャーセンターで講座も担当する。

「イエスマンを置いてはいけない」という言葉は、ビジネスの現場でもよく耳にします。しかし、大地丙太郎監督は「イエスマンがいないと作れない」と言い切ります。その真意とは・・・?

大地丙太郎(だいち・あきたろう)氏:アニメーション監督。『ナースエンジェルりりかSOS』(1995)でアニメ監督デビュー。主な作品に『こどものおもちゃ』(1996)、『セクシーコマンドー外伝 すごいよ!!マサルさん』(1998)、『十兵衛ちゃん』(1999、総監督)、『フルーツバスケット』(2001)、『信長の忍び』(2016)などがある。NHKで1998年から放送が開始した『おじゃる丸』は現在も放送中で、日本中の子供たちに親しまれている。
★ この連載について ★
1本のアニメ作品に関わるスタッフは100人以上。アニメーション監督は、そんな大所帯を率いて作品の完成を目指すプロジェクトリーダーだ。作品をちゃんとまとまった形にするために、監督は打合せで狙いを説明し、成果物をチェックしてOKかNGかをジャッジする。アニメはそんな「打合せ」と「チェック」の積み重ねで出来上がっている。アニメーション監督はそこでどのようなマネジメントを行い、作品をあるべき形へと導いているのか。さまざまなアニメーション監督の作品づくりを支えるマネジメント術から、ビジネスパーソンにも役立つポイントを伝えていく。

 

頭の中のイメージをどう伝えるか


――大地監督は、監督という仕事について聞かれたら、どういうふうに説明しますか? 

大地:監督の仕事って脚本打合せ(本読み)で意見を言ったり、絵コンテを発注したりチェックしたりとか、いろいろあるんですよ。でも、一言で言う時は、僕は「世界観を管理する役目」と答えることが多いですね。

 TVシリーズでは各話ごとに脚本も演出も担当者が変わるから、そういうメンバーを束ねて、『おじゃる丸』なら『おじゃる丸』らしくおもしろくなるようにしていく役割です。
 

――するとスタッフは、まず大地監督の頭のなかにあるイメージを理解する必要がありますよね。それは、どうやってスタッフで共有するものなんでしょうか?

大地:そうですね……そこを言葉でやる監督さんもいるかもしれませんが、僕は苦手なほうなんですよ。たまにほかの人の監督作品をお手伝いすることもあるんですが、作品の狙いについての説明がすごく上手で感心してしまいます(笑)。

 僕が言葉で狙いを説明できたのは『こどものおもちゃ』の時ぐらいですね。
 

――その時はどんなふうに説明したんですか。

大地:自分としては当初は「原作通りです」っていうことしか考えていなかったんです(笑)。でも、偉い人が集まる打合せで監督として何か方針を話さなくちゃならなくなったんです。それで会議に行くまでの道中で必死になって考えて、「“サンバ”だ」と思いつけたんです。

 主人公・倉田紗南が駆け抜けていく時に、ずっとサンバのリズムが流れているなというイメージがあったので。この作品はサンバでいきます、と宣言したんです。
 

――言葉で説明するのが苦手というお話ですが、スタッフはどうやって大地監督の「やりたいこと」を知るんですか。

大地監督が描いた『信長の忍び』第0話の絵コンテ(※こちらをクリックすると、一話分をまるごとご覧いただけます) ©️重野なおき/白泉社・信長の忍び製作委員会

大地:やっぱり、絵コンテ(脚本をもとに、どんな画面で構成するかの流れを描いたもの)ですね。第1話の絵コンテを自分で描くことで、どういう作品にしたいかを見つけ出していくところが大きいので。

 やっぱり『こどものおもちゃ』の話になりますが、第1話の脚本が出来上がった時はおもしろいと思ったんです。でも、絵コンテにしてみるとどうしても面白い感じにならない。それで、脚本家さんには申し訳ないけど、脚本から一度離れていきなり絵コンテを描いてみたんです。そうしたら納得いくものになった。

 だから、今度はその出来上がった絵コンテを、脚本チームに見てもらって、改めて僕のやりたいノリのようなものを理解してもらうようにしました。
 

――そこは成果物を通じて、コミュニケーションするほうがはやいのですね。

 

大地:監督の仕事って「おもしろいものを作る」ことですよね。でも、制作している時って視聴者との距離はまだ遠いので、まずは「スタッフのみんながやる気の出るものを作ろう」って思うんですよ。だから自分で直接作業をする第1話は緊張します。「なんだよこれ。意味がわからない」って言われちゃうものになってしまうと、スタッフのモチベーションが下がってしまう。

 「なるほど、こういうことをやりたいんですね」と言ってもらえるものをつくらないといけないんです。……ただ成果物を通じて伝えるとはいっても、やっぱり、自分がどういうものを作りたいかを言葉で把握しておくことは大事です。

 僕の場合は、取材を受けることが自分の考えをまとめる上でとても役に立ちました。
 

――第三者に説明することで、直感的に判断していたことが言語化されるんですね。

大地:はい。『こどものおもちゃ』の時って、すごく取材を受ける機会が多かったんです。取材で質問に答えていると、「ああ、自分はこんなことを考えていたんだ」という発見があります。しかも、活字になったものは、ちゃんと理路整然とされているのでわかりやすいんです。

 だから、取材記事の中の言い回しをスタッフへの説明に利用することもありました。僕は苦手だからこそ思うのですが、言葉にしておくことも大事ですね。
 

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