「夜寝ているとドカーンと大きな音がしてガバッと飛び起きた。炎が燃え上がるのが見えたので慌ててテントから飛び出した。あと5秒遅かったら命はなかった」とモリア難民管理センターに収容されているイラン出身のアリレザ(35)はその時を思い出して叫ぶように証言した。半年前にイランを出国。1カ月がかりでトルコを横断し、レスボス島にたどり着いた。難民認定が一番難しいとされる男性単身者で、認定審査の面談日も決まらない。
レスボス島の冬は厳しく、雪が積もる。昨年11月26日夜、暖を取るガスボンベが爆発。火はアッという間にテント村に燃え広がり、66歳のイラク女性と6歳の子供が死んだ。アリレザは「亡くなったのはこの2人だ」とそれぞれの写真を見せてくれた。あどけなく笑う少年の姿が痛々しい。犠牲になった2人は火元ではない。火の回りが早すぎて逃げ遅れたのだ。アリレザのテントも火元の並びにあった。テントとテントがくっついて乱立していたという。その後も、3人が一酸化炭素中毒で亡くなる事故が起きている。
コンゴ出身のジョエル(20)は「この島に来て5カ月になるが、これからどうなるのか全く分からない。まともなトイレもないし、食べ物もひどい。テントは寒いが、コンテナは女性しか入れない。今日も誰かが自殺したと聞いた。僕も手首を切った」と言う。先行きが見通せなくなった難民が絶望して自殺を図ったり、自傷行為に走ったりする例が報告されている。
ロンドンから飛行機を乗り継いで到着したレスボス島。対岸にうっすら見えるトルコはミティリニ海峡をはさんで13キロの距離だ。人口8万6000人、面積は1633平方キロメートルで沖縄本島(1207平方キロメートル)より大きい。オリーブなど農業、漁業、観光業が主な産業だが、2015~16年の欧州難民危機では島全体の人口の約7倍に相当する難民が押し寄せ、観光業が大きな打撃を受けた。