中東を読み解く

2017年4月12日

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 トランプ政権のシリア攻撃は長期的な戦略に基づいたものではなく、場当たり的な作戦だったことが一段と明らかになりつつある。その背景には、孤立主義を主張するバノン首席戦略官派と、国際的な関与を強めるトランプ大統領の娘婿クシュナー上級顧問派との権力闘争が激化していることがある。

沈黙する大統領

(GettyImages)

 「米第一主義」を掲げてきたトランプ氏が化学兵器を使用したシリアへの攻撃に踏み切ったことで、「米国の国益に関係のない他国の問題から距離を置く」としてきたこれまでの「不介入戦略」は大きく転換、時には人道的な問題でも軍事介入する姿勢が示される形になった。

 トランプ氏自身、攻撃に関する声明の中で「シリアでの殺りくや流血を終結させるため米国の行動に加わるよう」世界に呼び掛け、シリアの和平に主導権を取っていく考えすら示唆した。

トランプ政権の方針転換を鮮明にしたのはティラーソン国務長官だ。長官はG7の開催されたイタリアで、「世界のどこであっても、無辜の人々に対する犯罪をなすどんな者に対しても責任を取らせる」と踏み込み、トランプ氏が批判してきた米国の伝統的な価値観に回帰するような態度を見せた。

 だが、7日以降、トランプ氏はツイッターも含め、シリア問題に関する発言を一切控え、沈黙している。なぜか。その大きな理由はシリア介入派とこれに反対する一派が対立し、長期戦略を描けないでいるからだ。

 米メディアなどによると、シリア攻撃を積極的に主張したのは、クシュナー上級顧問やコーン国家経済会議委員長らニューヨーク出身の実業家勢力だ。これにマクマスター補佐官(国家安全保障担当)、マティス国防長官、ティラーソン国務長官らも賛同したようだ。

イバンカの助言が影響?

 特にクシュナー氏の夫人で、トランプ大統領が溺愛する長女のイバンカ氏が化学兵器で被害を受けた赤ちゃんらに衝撃を受け、トランプ氏に助言したことが攻撃に傾いた大きな引き金になったと見られている。家族重視のトランプ氏の姿が思い浮かぶ。

 対して慎重論を唱えたのは、バノン首席戦略官やプリーバス首席補佐官、ミラー上級顧問らトランプ氏の大統領当選を支えた「米第一主義」論者たちだ。ミサイル攻撃後、この一派の支持者らからは「介入は裏切り」という批判も出始めている。

 「不介入戦略」を掲げてきたトランプ政権にはもともと、長期を展望したシリア政策はない。ミサイル攻撃のほんの数日前まで、アサド政権の存続を「政治的現実」(スパイサー大統領報道官)として容認していたにもかかわらず、攻撃後唐突に「アサド氏の退陣を要求」(ヘイリー米国連大使)している事実が場当たり的な政策しか持っていないことを浮き彫りにしている。

 シリア内戦の終結のため外交的なイニシアチブを取り、和平交渉を積極的に推進する考えはあるのかどうか。アサド政権の居座りを認めるのか、追放を掲げるのか。反体制派をオバマ政権同様、支援するのか、支援を打ち切るのか。過激派組織「イスラム国」(IS)の壊滅作戦と並行して内戦終結も目指すのかどうか。

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