シリーズ「東芝メモリを買ってほしいところ、買ってほしくないところ」

2017年4月14日

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湯之上隆 (ゆのがみ・たかし)

微細加工研究所所長

1961年生まれ。静岡県出身。京都大学大学院(修士課程原子核工学専攻)を修了後、日立製作所に入社。以後16年にわたり、中央研究所、半導体事業部、デバイス開発センタ、エルピーダメモリ(出向)、半導体先端テクノロジーズ(出向)にて、半導体の微細加工技術開発に従事。2000年に京都大学より工学博士授与。現在、半導体産業と電機産業のコンサルタントおよびジャーナリスト。微細加工研究所所長。著書に『日本型モノづくりの敗北 零戦・半導体・テレビ』(文春新書)など。

 第二に(これが問題なのだが)、東芝の技術者は根拠のない自信を持っているせいで、「そんな特殊なガスを使わなくても孔を開けてみせる」と言い張った。

 ところが、やはり孔は開かなかった。その結果、ラムリサーチ推奨のガスを使うことになり、半導体工場における集中配管システムの工事が行われるに至るわけだ。

 こうして東芝の迷走を綴ってみると、素直に最初からラムリサーチのドライエッチング装置を買い、ラムリサーチの言う通りのガスを使っていればと、思わずにはいられない。東芝はまるで、「我に艱難辛苦を与えよ」とでも思って自らドツボに陥っているとしか思えないのである。そして、徒に時間だけが過ぎていく。

東芝が周回遅れになったもう一つの事情

 ここまで、3次元NANDで東芝が周回遅れになった理由が、深孔加工で迷走したことにあったことを詳述した。ところが、例え、深孔加工がすんなりできたとしても、東芝には48層の3次元NANDを大量生産できない事情があった。

 その事情とは次の通りである。3次元NANDの製造には、2次元NANDよりも、製造コストが2~3割高くなる。それは、図2に示したように、3次元NANDの製造には、膜を積み、深孔を開ける工程に装置が大量に必要になるからである。

 例えば、東芝が迷走したメモリセルの深孔のドライエッチングでは、ラムリサーチの装置を使っても、1時間に1枚しか処理できない。因みに、2次元NANDのメモリセルでは、このような孔の加工は僅か1~2分で済む。

 半導体メモリの量産工場では、1ヶ月にウエハを約10万枚流す。30日で10万枚だから、1日あたり3333枚の処理が必要となる。1ロット25枚入りのカセットで計算すれば、1日あたり133ロットの処理が必要となる。

 ところが、メモリセルの深孔は、1枚1時間かかる。1チャンバで1日に1ロット(25枚)程度しか処理できない。したがって、1日に133ロット処理するためには、最低133チャンバのドライエッチング装置が必要となる。メンテナンスなどの余裕をみれば150~200チャンバ程度は必要だ。

 さらに、メモリセル周りには、深孔加工以外にも、深孔加工の前のハードマスク加工、スリット(溝)加工、階段状のホール加工が必要となる。それを全部合計すると、恐らくメモリセル周りだけで400~500チャンバ位必要になるのではないか。

 このように3次元NANDには、2次元NANDに比べて桁違いな装置台数が必要となる。その結果、試算すると、48層まではつくっても利益が期待できないのである。したがって、業界では、3次元NANDの勝負は64層からになると思われていた。

 実際、表1を見せて、「何で東芝は生産キャパの5.4%しか3次元NANDをつくっていないのか?」と聞くと、東芝関係者は、「48層まではつくればつくるほど赤字だ。だから東芝は次(64層以降)にアクセルを踏む」という見解を示した。

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