オトナの教養 週末の一冊

2017年4月21日

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中村宏之 (なかむら・ひろゆき)

ジャーナリスト

1967年生まれ。91年、慶應義塾大学経済学部卒、読売新聞東京本社入社。ロンドン特派員、米ハーバード大学国際問題研究所研究員、経済部デスク、調査研究本部主任研究員などを経て2017年4月より読売新聞東京本社メディア局編集部次長。『御社の寿命』、『世界を切り拓くビジネス・ローヤー』、(いずれも中央公論新社)など

 衝撃的なタイトルの本である。企業倒産の事例を紹介しながら、その背景にある様々な事情を綿密な取材をもとに解説した。一口で企業倒産といっても、その姿は千差万別である。それぞれ固有の理由や経緯があり、関係者の打算や思惑も交錯する。一つとして同じ倒産はないものの、子細に分析してゆくと、似たような倒産のパターンともいったものがぼんやりと見えてくるから不思議だ。信用調査会社・帝国データバンク東京支社で長く情報部長を務めた藤森徹さんが長年の取材経験をいかしてまとめた。

経営者の判断の重要性

『あの会社はこうして潰れた』(帝国データバンク情報部 藤森徹、日本経済新聞出版社)

 本書には実に多くの会社が登場する。老舗のゲームセンター、500年続いた和菓子屋、ユニークな書籍が人気だった出版社など、一般によくその名を知られた会社も含まれている。 経営者の慢心、為替相場の方向性を見誤ったがゆえの巨額損失、本業外の野放図な金融取引、身の丈をこえた規模やスピードによる拡大路線——。倒産をめぐる多岐にわたる事例と背景事情が紹介される。いずれも綿密な取材で掘り起こしたものであり、それらに共通するのは見通しの甘さであったり、経済情勢の判断の誤りだったりと、経営者の資質に帰するものも多い。全国どこにでもありそうな中小企業がささいなきっかけから破綻劇の当事者になってしまう時代であり、多くの経営者にとって全くの他人事ではないだろう。

 中には3度も破綻した宝飾会社のほか、社員の不正に甘すぎる対応をとった会社などにわかには信じられないようなケースも多い。この会社の事例はこうだ。100年をこえる地方の老舗紙問屋で、地元の新聞社や有力印刷業者などを取引先に持つなど、地元の有力企業だったが、取引先の倒産などで経営が苦しくなる。加えて営業成績トップの社員に健康上の問題が起きて販売力が低下したほか、経理担当の幹部社員が長年にわたって売上金を着服していた。最終的に数千万円規模にも及ぶ不正着服を行っていたにもかかわらず、あろうことか、この会社はその幹部をクビにしなかった。それどころかそのまま経理業務を任せていたのだ。「ほかに経理がわかる社員がいなかった」というのがその理由だったというが、ガバナンスの欠如した会社が生き残れるはずもない。結局、自己破産を申請するにいたった。業歴の長い地方の有力企業であっても、こうしたことは起きてしまうのである。

 様々な倒産事例を見るにつけ、最終的に問われるのは、経営者の責任感や自覚、そして判断する力である。経営者が油断し、判断を誤ると、それまで順調だった会社もすぐに傾いてしまう。加えて近年の地方経済の衰退も、地元の企業には大きな影響を及ぼしている。具体的なエピソードがふんだんに盛り込まれているので手に取って参照すると、数多くの教訓を学ぶことができる。ある特定の企業グループの消費に依存していた飲食業の例に見られるように、頼みにしていたその企業の調子が悪くなると、一気に経営的に甚大な影響を受けてしまう「一本足打法」の危うさなど、ビジネスモデルの安定性を確保する重要性についても学ぶところは多い。

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