2024年4月20日(土)

ACADEMIC ANIMAL 知的探求者たち

2010年6月20日

●核っていうと原子力やウランを思い浮かべてしまいますが、宇宙のなりたちをみると核融合のほうがベーシックなんですね。

——恒星はそうだけど、地球に住んでればどっちもどっちですよ。どうして温泉が出たり火山が噴火したりするのか。地球の中はなんであったかいのか。それは、ウランなどの出した放射線が外に逃げずに地球内部にこもっているからです。もとをただせば核反応。放射性物質が変化するときに熱を出したのがマグマなどになっているわけです。地球はもともと放射線と核反応であったまっているんです。そのウランを作ったのは核融合ですが。

●原子力とか核反応には人間が人為的にやりはじめた禁断のものというイメージがありましたが、実は自然なものなんですね。

——そう。太陽光だって核融合だし、地熱も放射能だし。だいたい、地球ができて46億年、生物なんて発生してから38億年、ずーっと放射線を浴びているわけでね。放射線がまったくないところへ行ったらもしかしたら死にますよ。太陽から山ほどの放射線がやってきていて、地球の内側からも放射線由来の熱がきている。上からも下からも放射線をあびているのが我々なんです。放射線をいつも浴びてるのが自然な姿です。

 昔の海はもう少し塩が薄かったらしく、海から出て進化してきた我々の体液の塩分はその濃度に近いので、今の海水はしょっぱすぎて飲めません。昔の放射線はもう少し強かったはずなんです。だから、もしかしたら放射線はもう少し強いほうが生物は元気になるかもしれません。マイナスイオンが体にいいとかいいますが、放射線は、マイナスイオンをつくります。がん治療にも放射線を使いますね。毒をもって毒を制す、です。放射線があたって傷ついたのを修復する能力も人間にはあって、そのほかに酸素呼吸やいろいろな原因でDNAが傷ついても治ったり、アポトーシスとかいろんな防御機能がある。ときどき放射線あててその能力を使わないとかえって力がなまっちゃう。 

 自然界は、もともと有害なものを含んでバランスしています。たとえばレタスには少し苦みがあるけどあれはアルカロイドという毒です。食べられてうれしい葉っぱはいないから、自分が食べられないように苦くしているわけですよ。おれを食ったら死ぬぞ、と。こっちはそれを食っても死なないように耐性をつけているわけ。その一方で野菜を取ることで健康に良いことがあるから食べる。てきとうに毒があるくらいがちょうどいい。

●エネルギー、太陽電池、核融合、サステナビリティ。先生の研究には転換点がいろいろありましたね。

——まぁ、なりゆきですよ。最後のところには植物や生物が好きだったっていう趣味の影響が入っていると思いますが。太陽エネルギーから核融合にいったのは、どっちもいいなと思ったけど、核融合のほうが先にものになると思ったから。太陽エネルギーもいいんですが、太陽電池のシリコンを作るにはエネルギーがすごくかかる。30年分の二酸化炭素を一気に使って太陽電池をいっぱいつくって、あとはずっと排出しないという考えもあるでしょうが。それは借金をつくるみたいなところがあります。

 高校の頃は哲学や社会学に興味がありました。メルロ=ポンティとか、構造主義のレヴィ=ストロースとか。大学を受けるときは、理系と文系で悩みました。理系で受ける場合は国語や社会で点数を稼いで、文系で受けるときは生物や地学で稼ぐタイプ。理系と文系のどっちかというより、両方そこそこにとるタイプでした。それがいま、めぐりめぐって学際的な研究をやっているのにつながっているのかもしれません。焼畑の話でもそうですが、科学万能主義ではなくて、土俗信仰とかに価値を感じるのも、レヴィ=ストロースとか影響しているんでしょうか。

●バイオマス燃料化核融合炉のほかにやりたいことはありますか?

——生臭くないものでいうと、卓上型の中性子ビームをつくりたい。X線のかわりに透視するのに非常に優れた性質をもっているのが中性子。原子炉や大きな加速器がないと作れないんですが、うちではもっと小型のマシンで作れるようにするつもりです。核融合の応用ですね。X線と同じように医学、生物学、治療や診断に役立つはずです。がんを殺しながら生体には影響を与えないという意味ではガンマ線よりも中性子のほうが向いています。深く入っていってがん細胞のところでいきなりドカンと被害を与えるという使い方ができます。


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