フィナンシャル・タイムズ紙コラムニストのギデオン・ラックマンが、3月20日付の同紙で、米国は北朝鮮が米国の西海岸を攻撃できる核弾頭搭載ICBMを開発したからと言って、北朝鮮に軍事行動はとるべきでない、と述べています。論説の要旨は以下の通りです。
中国の王毅外相は、米国と北朝鮮の関係を、同じ線路を反対方向から走り、いまにも衝突しそうな列車に例えた。先週ティラーソン国務長官は、米国の北朝鮮に対する戦略的忍耐の時代は終わった、米国はあらゆる選択肢を検討していると述べた。
北朝鮮が米国の西海岸に到達できるICBMを開発することは許せないというのが、米国の超党派の一致した意見である。ティラーソン発言は、もし北朝鮮の核開発を外交的、経済的圧力で止められないなら、軍事行動を取ることを示唆している。
しかし北朝鮮の核施設を爆撃するのは、危険で愚かな考えである。米国は過去20年間繰り返し軍事行動を検討しては、繰り返し取り下げてきた。それには理由がある。北朝鮮の核施設は、地下、海中のものも含め広く分散しており、一撃ですべての核施設を破壊できそうにない。そうなると北朝鮮による核報復があり得る。
仮に奇跡的にすべての核施設を一撃で破壊できたとしても、北朝鮮には強力な通常戦力がある。北朝鮮との国境から35マイル(56キロ)しか離れていない人口1000万のソウルは破壊的な砲撃にさらされるだろう。日本や地域の米軍基地もミサイル攻撃の対象となる。
北朝鮮に対する先制攻撃は、多大な犠牲が予想される韓国と日本の支持を得られそうにない。
したがって米国が核弾頭搭載のICBMを許せないという考えは再考されるべきである。これは米国が北朝鮮の核武装を黙認するということではない。しかし脅威に対処する最善の方法は軍事ではなく、外交、経済である。
短期的には北朝鮮への経済的圧力を増すことは意味があるかもしれない。しかし長期的に望ましいのは、米国が北朝鮮の政権を転覆しないことを保証し、経済支援を与える代わりに北朝鮮が核計画を凍結するという取引を探すことである。これは北朝鮮の専門家John Deluryが「大取引」と呼ぶものである。
仮に「大取引」がうまくいかなかった場合でも、選択肢は戦争ではない。
米国は、過去ソ連(ロシア)をはじめ、種々の核の脅威と共存してきたように、北朝鮮の核の脅威と共存する以外にない。さもなければ王毅外相が言ったように、恐ろしい列車の衝突を迎える恐れがある。
出 典:Gideon Rachman‘Bombing North Korea is not an option’(Financial Times, March 20,2017)
https://www.ft.com/content/9c6cdb9a-0d4e-11e7-b030-768954394623