WEDGE REPORT

2017年5月24日

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崔 碩栄 (チェ・ソギョン)

ジャーナリスト

1972年韓国ソウル生まれ。韓国の大学で日本学を専攻し、1999年渡日。関東地方の国立大学で教育学修士号を取得。日本のミュージカル劇団、IT会社などで日韓の橋渡しをする業務に従事する。現在、フリーライターとして活動、日本に関する紹介記事を中心に雑誌などに寄稿。著書に『韓国人が書いた 韓国で行われている「反日教育」の実態』(彩図社刊)、『「反日モンスター」はこうして作られた-狂暴化する韓国人の心の中の怪物〈ケムル〉』(講談社刊)がある。

 文在寅大統領の就任から2週間。短い期間ではあるが、韓国メディアはこの間、新大統領に関する話題で持ちきりである。例えば、歴代政権では見られなかったような破格の人事、脱権威的な大統領の言動についてである。もちろん、これらの新大統領の動きをポピュリズムと批判する声もあるが、国民の評価は概ね肯定的だ。新政権に対する支持率が歴代最高の87%という調査結果もそのような国民の期待が表れた数字である。

文在寅大統領夫妻

 しかし、好スタートを切った大統領の陰で序盤から「暴走」している集団がいる。それは他でもない文在寅を大統領にした文在寅の支持者たち(その中でも熱狂的な支持者)である。

 2017年初から5月9日の選挙まで、文在寅の支持者たちが見せた「過激ぶり」は既に知られていた。例えば、数百人の支持者グループが組織的に反対勢力に迷惑メールを送ったり、ネット掲示板で競争候補への誹謗を繰り返したことが報じられ物議を醸した。また、ある大学教授は文在寅の応援のため、貸し切りバスを利用して弟子170人を動員したことが摘発され、選挙法違反容疑で拘束された。

 「やり過ぎ」と、韓国内でも批判を浴びることもある彼らであったが、彼らは文在寅を熱烈に支持する勢力であり、彼らが支持する文在寅は政権を取ることに成功した。それは彼らにとって理想的な結末のはずなのにいったい何が起きているのだろうか。問題は彼らの暴走が文在寅大統領の誕生というゴールラインを過ぎても止まらず、その勢いを増しているということだ。

文在寅や支持者を批判した言論・記者に対するバッシング
そして群衆の前に次々と屈服、謝罪した言論

 選挙後の彼らの「暴走」が人々の目を驚かせたのは、大統領選の興奮から人々が少し落ち着きを取り戻した5月14日。ネットメディア「オーマイニュース」が大統領の夫人金正淑を指して「金正淑氏」と表現したことに始まった。文大統領の支持者たちが「<令夫人>、<女史>という呼称を使わずになぜ格下の<氏>という表現を使ったのか」と記事を書いた記者に激しく抗議したのだ。日本に比べ呼称に敏感な韓国ならではの出来事ともいえる。

 これに対して記者は自分のSNSで「李明博政権の時から<氏>という表現を使ってきた。<氏>も立派な尊称」と支持者たちの度を越えた「干渉」に抗弁した。すると怒った支持者たちにより記者のSNSや新聞社の掲示板が炎上。結局、二日後に解明と共に謝罪する羽目に陥る。

 この事件に反発したのは他でもない「記者」たちである。韓国で最も左性向と言われるメディアオヌルの記者がこれに対し自分のSNSで「気に入らないからと言って、犬の群れのように集団で噛みついて屈服させる時代なら、言論なんて要らない。それはファシズムだ。記者狩りに夢中の皆さん、それはあんたたちのご主人様にも迷惑な行為だ」と痛烈な抗議のメッセージを載せたのだ。また同じく左性向のハンギョレ新聞の記者もSNSに「(俺が)相手にしてやる。かかってこい、文パたちよ」(「~パ」はアイドルや有名人の過激なファンを指す俗語)というメッセージを残した。同僚記者に対する群衆のリンチをみて感じた無念と怒りを表した言葉だったのだろう。

 しかし、こういった発言はかえって文在寅支持者たちの怒りに油を注ぐ結果となった。記者や新聞社に抗議と非難が殺到し、中でも「かかってこい、文パたちよ」と書いた記者のメッセージには1万以上のコメントが殺到した。さらには、ある人気インターネットコミュニティーの掲示板に「新聞社の株主総会を掌握し、この記者たちを全部一掃しよう」「広告主に対して不買運動を起こそう」という過激な提案が寄せられた。波紋が広がると、二人とも自分の発言を削除したうえで、謝罪することを余儀なくされた。

 面白いのは、SNSと掲示板が炎上し、公開謝罪することになった、3人の記者が所属する媒体はすべて韓国では左性向であり、どっちかというと文大統領に好意的な媒体だということだ。ハンギョレ新聞に至っては、創刊の際、当時弁護士だった文大統領が株主として参加し、釜山地域の支社長まで務めたほどに縁が深い。文大統領の支持者たちが文大統領や自分を批判したと牙をむいたのはそんなメディアたちだ。

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