海野素央の Love Trumps Hate

2017年5月31日

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海野素央 (うんの・もとお)

明治大学教授、心理学博士

明治大学政治経済学部教授。心理学博士。アメリカン大学(ワシントンDC)異文化マネジメント客員研究員(08~10年、12~13年)。専門は異文化間コミュニケーション論、異文化マネジメント論。08年及び12年の米大統領選挙においてオバマ陣営にボランティアの草の根運動員として参加。16年米大統領選挙ではクリントン陣営に入る。著書に「オバマ再選の内幕―オバマ陣営を支えた日本人が語る選挙戦略」(同友館)など多数。

 今回のテーマは「トランプ初外遊に影を落とす『ロシアゲート疑惑』」です。ドナルド・トランプ米大統領はなぜ初外遊に中東を選択したのでしょうか。成果はあったのでしょうか。どのような思いで主要7カ国(G7)首脳会議に臨んだのでしょうか。本稿では、まずトランプ初外遊を分析し、次に選挙期間中にロシア政府とトランプ陣営が共謀していたのではないかという「ロシアゲート疑惑」に関して述べます。その上で、トランプ弾劾促進の3要素を紹介します。

G7サミットに抗議する人々(Sean Gallup/Getty Images)

異なった宗教に橋を架ける仲介者

 トランプ大統領の中東訪問は一言で言えば、関係修復外交でした。リセット外交とも言えます。オバマ前政権で冷え込んだサウジアラビア及びイスラエルとの関係修復が目的であったことは明らかです。

 選挙期間中トランプ大統領は「イスラム教過激テロ」と呼び、一部の有権者が持つ「イスラム教徒=テロリスト」というステレオタイプ(固定観念)に訴え成功しました。大統領就任後は例のイスラム圏7カ国入国一時禁止の大統領令に署名し、その後対象国を6カ国に修正して大統領令を発令したのです。イスラム教徒を標的にしているのは明確です。ところが、今回の「米アラブ・イスラム・サミット」における演説では、イスラム教徒ではなくテロリストを共通の敵にして「善対悪」にすり替えて関係修復を図ったのです。

 トランプ大統領は映像に訴える外遊も行いました。その代表がエルサレム市内にある「嘆きの壁」を訪れ、キッパというユダヤ人男性が頭に被る小さな帽子を被り、右手を壁に触れて聖地に敬意を示している姿です。同大統領は、壁の石の隙間に神への祈りを書いた紙を入れました。イスラエルのユダヤ教徒のみならず、米本土のユダヤ教徒の有権者も意識した行動と言えるでしょう。

 トランプ大統領は中東に加えてバチカンを訪問し、今回の外遊を通じてイスラム教、ユダヤ教並びにキリスト教といった異なった宗教に橋を架ける仲介者というメッセージを発信しました。ただその手法は選挙期間中と変わらず、対立構図を用いて融合を図るというものでした。今回はイランを敵にしたわけです。対立構図を利用する同大統領は、本当の平和構築者とはとても言い難いです。

6対1

 一方、G7ではトランプ大統領は「リーダーの中のリーダー」及び「首脳の中の首脳」という演出を行いました。貿易分野では「不公平な貿易慣例に断固として反対しつつ、開かれた市場を維持し、保護主義と闘うという関与を再確認した」という首脳宣言が発表されました。

 前半の「不公平な貿易慣例に反対」はトランプ大統領、後半の「保護主義と闘う」は6カ国首脳の主張を反映しています。今回の貿易分野における首脳宣言は、同大統領と他の首脳の意見を折衷した形になっています。その背景には、自由貿易か保護貿易かを巡って6対1(同大統領)の議論になったことが窺えます。ドイツのアンゲラ・メルケル首相は、地球温暖化対策におけても6対1(同氏)になったと語っています。 

 中東における関係修復は、トランプ大統領にとって困難な課題ではありませんでした。それに対してG7では、貿易分野や地球温暖化対策において各国の首脳から抵抗にあったわけです。同大統領は今回の初外遊の成果を「ホームラン」と自画自賛していますが、100%満足のいくものではなかったはずです。というのは、外遊の成果は米国民のロシアゲート疑惑から目を逸らすことができなかったからです。

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