海野素央の Love Trumps Hate

2017年5月23日

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海野素央 (うんの・もとお)

明治大学教授、心理学博士

明治大学政治経済学部教授。心理学博士。アメリカン大学(ワシントンDC)異文化マネジメント客員研究員(08~10年、12~13年)。専門は異文化間コミュニケーション論、異文化マネジメント論。08年及び12年の米大統領選挙においてオバマ陣営にボランティアの草の根運動員として参加。16年米大統領選挙ではクリントン陣営に入る。著書に「オバマ再選の内幕―オバマ陣営を支えた日本人が語る選挙戦略」(同友館)など多数。

 今回のテーマは「反面教師にしたいトランプのクビの切り方」です。ドナルド・トランプ米大統領は就任後わずか120日で、最大の危機に直面しています。突然のジェームズ・コミー米連邦捜査局(FBI)長官解任が傷口を広げたのです。「トランプ政権の終わりの始まり」と言えるかもしれません。確かに弾劾はハードルが高いのですが、弾劾訴追権を有する議会下院が来年行われる中間選挙の結果を懸念して、一斉にトランプ批判を開始すると弾劾の現実味が帯びてくる可能性が充分あり予断を許しません。

 本稿では、まず異文化ビジネスにおける解雇の仕方に関わるエピソードを紹介します。次に、トランプ大統領のコミー長官解任が生んだマイナス要因を分析します。さらに、同大統領が今後ロシア政府とトランプ陣営の共謀疑惑に対してどのようにして対処するのかについて述べます。その上でトランプ大統領弾劾の可能性について考えます。

コミー長官の解雇を報じるWSJ紙(Spencer Platt/Getty Images)

異文化ビジネス環境における解雇の仕方

 米国の大学院で開講している産業・組織心理学の授業で、ある米国人教授が解雇の仕方について次のような説明をしていました。

「解雇を言い渡す側は出口の傍に座ること」

 この教授によれば、解雇を言い渡された米国人従業員の中に感情を取り見出し暴力を振るう従業員がいるので、すばやく逃げる準備をしておくことがポイントの一つになります。米国社会では解雇に伴う職場暴力の対策が講じられています。

 米国進出日系企業の中に誤った解雇の仕方をして、問題を大きくしてしまった企業があります。『海外派遣者ハンドブック』(日本在外企業協会)には米国西部に進出している中堅商社のケースが掲載されています。この企業で働く日本人副所長は、勤務態度の悪い米国人女性従業員に対して解雇通知をしたのですが、記録をつけていなかったために逆に訴訟を起こされてしまったのです。

 異文化ビジネス環境で日本人管理職が現地従業員に解雇通告をする場合、細心の注意が求められます。では、これまでビジネスで従業員を解雇してきたトランプ大統領は、コミー長官を効果的に解雇できたのでしょうか。

逆効果を生んだコミー長官解任

 トランプ大統領のコミー長官解任は明らかに逆効果でした(図表)。

 まず、選挙期間中ロシア政府とトランプ陣営が共謀していたという疑惑を一層深めてしまったのです。さらに、約3万5000人のFBI職員の結束を高め敵に回してしまいました。同大統領にとって本当の脅威はもはや北朝鮮の核・弾道ミサイル開発ではなく、FBI及び特別検察官による捜査です。

 それらに加えて、「静かなクーデター」が静かでなくなる可能性も出てきたのです。上院の承認が必要な高官ポストがまだうまっていません。556の内、承認を得たのは僅か25です。その結果、トランプ政権にはオバマ前大統領によって任命された職員が残っており、彼らが情報をメディアにリークしているとみられています。

 反オバマ色の強い保守派のラジオ司会者ラッシュ・リンボー氏はこれを「静かなクーデター」と呼んでいます。トランプ大統領は情報提供者がFBIに存在すると捉えており、コミー前長官がロシア政府とトランプ陣営の共謀疑惑よりも、リークした犯人捜しに時間とエネルギーを費やすように望んでいました。オバマ前大統領が指名したコミー氏解任により、同前大統領に忠誠心がある職員によるリークがさらに増す可能性があります。

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