2024年4月17日(水)

中東を読み解く

2017年6月1日

フィロソフィーの違い

 ハムザの主張はしかし、父やザワヒリと大きく異なる部分もある。最大の違いは、一匹オオカミ型のテロを呼び掛けている点だ。ビンラディンの手法は9・11でも分かるように、周到に準備した組織型のテロだ。しかしハムザは支持者らに欧米やユダヤ人の標的を単独ででも攻撃するよう求めている。

 しかもテロの手段として、入手できるものは何でも使うよう指示している。こうした呼び掛けはまさにISが行ってきたもので、ハムザはISから手法を学んだとも言えるかもしれない。

 また、ハムザはザワヒリのように、IS非難はしていない。これもISのメンバーがアルカイダに移りやすくなるよう、非難を故意に避けていると受け止められている。ISが壊滅した後の受け皿としての将来を考慮したものではないかという。

どこに潜んでいるのか

 米国がハムザの存在を詳しく知ったのは、ビンラディン殺害の時に押収した文書類やパソコンなどからだ。ハムザはビンラディンの20人といわれる子供の15番目。父親のサウジ追放とともに、スーダン、アフガニスタンと逃避行を続けた。

 9・11後、アフガンに侵攻した米国の追跡が迫ると、ビンラディンはハムザを含めた家族をイランに逃がした。ハムザはイランで軟禁状態に置かれていたが、2009年の父親への手紙の中で、「ムジャヒディン(戦士)軍団が行進しているのに、自分が入っていないのは悲しい」と心情を書き送っている。

 ビンラディンはハムザを後継者と見ていたらしく、側近にハムザをカタールで教育を受けさせるよう指示していたという。イランは2010年ごろにビンラディンの家族の出国を許可。家族らはビンラディンが殺害された時には一緒に住んでいた。

 しかしハムザはビンラディンとは離れて潜伏していたために、米海軍特殊部隊シールズによる殺害を逃れた。ハムザは一時、パキスタン・アフガン国境の部族地域にいたことは分かっているが、現在どこに潜伏しているのかは分かっていない。

 部族地域でザワヒリと一緒にいてテロリストの帝王学を学んでいるのか、シリアやイエメンの分派にかくまわれているのか。ISの壊滅が近づけば近づくほど、謎に包まれた新しいスター、ハムザの存在感は高まることになるだろう。
 

  
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