中東を読み解く

2017年6月1日

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 英マンチェスターのコンサート会場やアフガニスタン・カブールなどで大規模テロ事件が続発する中、こうした犯行を繰り返す過激派世界に“新しいスター”が登場した。米同時多発テロ「9・11」を起こした国際テロ組織アルカイダの指導者オサマ・ビンラディンの息子ハムザ(28)だ。ビンラディン伝説が蘇ろうとしている。

カリスマ性

(iStock)

 ニューヨーク・マンハッタンの双子の高層ビル「世界貿易センター」に旅客機を突っ込ませて崩壊させたビンラディンはテロリストたちにとってはすでに伝説化、崇拝の対象にさえなっている。現在、アルカイダと対立している過激派組織「イスラム国」(IS)でさえ、ビンラディンを批判することはない。

 ビンラディンが2011年、潜伏先のパキスタン・アボタバードで米海軍特殊部隊シールズに殺害された後、アルカイダの指導者にはエジプト人の元医師、アイマン・ザワヒリが就いた。しかし米軍の空爆などでアフガニスタンとパキスタン国境の部族地域にあったアルカイダの本拠は壊滅状態に陥った。

 シリアやイエメンなどに散らばった分派が本家に代わって活動しているものの、過激派の主導権はISに奪われているのが現実だ。ザワヒリにビンラディンが持っていたようなカリスマ性がないことも組織衰退の一因である。

 米ワシントン・ポストによると、こうした中、5月の半ばごろから、ビンラディンの息子であるハムザの音声メッセージが過激派のサイトを中心に出回るようになった。ハムザの存在を一昨年紹介したのはザワヒリ自身で、“アルカイダの獅子”として後継者であることを仄めかした。

 ハムザはメッセージの中で「不信心者に壊滅的な打撃を加える準備をせよ」と呼び掛け、特に「シリアで殺された子供たちに報復するため欧米の都市でテロを起こすよう」要請。殉教した先陣たちに続くよう求めている。

 専門家らはハムザが今、メッセージを出した理由について、過激派の世界で君臨してきたISがシリアとイラクで軍事的に追い詰められ、滅びが近いという状況に乗じ、主導権を奪回して再び過激派の頂点に立とうとする思惑があるのではないかと見ている。

 ハムザには指導者に必要なカリスマ性という面から2つの“強み”がある。1つは伝説化しているビンラディンの息子という出自の正当性。もう1つはイスラムの預言者ムハンマドの血筋という点だ。母親はカイリア・サバルというサウジアラビア人で、ビンラディンの3番目の妻だが、ムハンマドにつながる一族の出身者だとされているからだ。

 だが、ハムザには弱みもある。それは彼の顔が全く明らかになっていないことだ。指導者として崇拝されるためには、声だけでは不十分だ。どんな人物か、イメージが全くつかめなければ、支持の広がりにも限界がある。米国による暗殺を避けるため、という安全上の理由からだが、ハムザにとっては大きなジレンマになるだろう。

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