2024年4月27日(土)

70点の育児入門

2017年6月15日

質問:麻疹が流行していると聞き子どもに予防接種を受けさせようとしたのですが、「必要ない。はやり病だから一度かかればいいんだ」と、両親も夫も言うので迷っています。本当に必要ないんでしょうか?

答え:麻疹は子どもがかかる伝染病の中でも症状が重く、重症化すると生命に危険が及ぶことさえあります。特別な治療薬がない反面、ワクチンは予防に有効ですので、ぜひ受けさせてください。

答える人 石橋涼子先生(石橋こどもクリニック院長)

石橋涼子(いしばし・りょうこ)
東京大学医学部卒業。大学での研修の後、NICU、総合病院、障害児施設などに勤務。1996年からまつしま産婦人科小児科病院(現・まつしま病院)小児科部長、2005年1月に東京・江戸川区小岩に石橋こどもクリニックを開院。

 麻疹は麻疹ウイルスの空気感染によって発症します。感染力は強く、感染すればほぼ100%発症するのも大きな特徴です。

 初期の症状は発熱や鼻水、咳など、ふつうのかぜと区別できません。目やにが出ることもあります。この時期をカタル期(前駆期)といいます。風邪にしては症状が重いなと思っているうちに発疹が出てきて、麻疹だとわかるというパターンが多いと思います。一般に症状は重く、体力も消耗しますし、飲食が難しくなることもあります。

 カタル期の終わりにいったん熱が下がるので「風邪が治ってきたのかな」と思いがちですが、すぐにまた熱が上がり、同時に発疹が出始めます。2度目の熱は1度目よりも高熱になりやすい傾向もあり、多くの場合1週間前後は高熱が続きます。

 発疹は耳のあたりなどから起こり全身へと広がっていきますが、次第に発疹と発疹がくっついて大きくなるのが風疹との違いです。熱が下がってくると赤かった発疹が色素沈着で茶色になっていき、症状は収束します。

 麻疹だけでも症状は重いのですが、さらに深刻なのは合併症を起こすケースです。とくに問題になるのが、肺炎と脳炎です。

 合併症の約半数を占める肺炎には、麻疹ウイルスそのものの増殖で炎症が起こる「ウイルス性肺炎」、細菌感染が合併する「細菌性肺炎」があります。細菌に対しては抗生物質で治療しますが、麻疹ウイルスに対しては特別な薬はなく、肺炎になってしまって酸素吸入や呼吸補助などを行いつつ回復を待つしかありません。症状が重いので亡くなってしまうこともあります。

 脳炎にかかる人は麻疹発症者の1000人に0.5~1人と少数ですが、かかってしまうと致死率は約15%、20~40%に中枢神経系の後遺症が残るといわれています。またこれとは別に、亜急性硬化性全脳炎(subacute sclerosing panencephalitis : SSPE) という、麻疹にかかった後数年経ってから神経症状が現れ、徐々に症状が進行して数年から十数年で死に至る、そんな恐ろしい合併症もあります。

 感染力が高く、合併症のリスクも高い上に有効な治療薬がない麻疹ですが、ワクチンの有効性は高く、接種していれば発症することは少なく、仮に発症したとしても症状は軽くなります。「ワクチンを接種せずにかかってしまえばよい」という考えはあまりにもリスクが高く、とうていお勧めできません。

 予防接種をしていてもかかってしまう人がいるのは、ひとつは1回の接種で十分な抗体ができなかった場合、もうひとつは接種から時間が経ち、新たにウイルスに接する機会もないうちに抗体が少なくなってしまった場合です。近年は予防接種率が高くなり麻疹が流行することが減って、ウイルスにさらされる機会が少なくなったため抗体価が維持しにくくなってきており、時折麻疹の小流行が繰り返されていました。このため、2006年度からは1歳児と小学校入学前1年間の幼児の2回接種が定期接種として制度化されました。

 1回目が1歳児となっているのは、6カ月前後までは母体からの移行免疫があるため、抗体価がうまく上がらないことがあるからです。特にリスクが高いということではないので、周囲で流行していれば1歳未満でも接種することが勧められます。この場合はその後の定期接種もスケジュール通り受けるのがよいでしょう。

  
▲「WEDGE Infinity」の新着記事などをお届けしています。


新着記事

»もっと見る