2024年12月22日(日)

WEDGE REPORT

2017年6月21日

 ロンドン北部のモスク付近で白人の運転する車がイスラム教徒に突っ込んだテロ事件は典型的なヘイトクライム(憎悪犯罪)と見られているが、最大の勝利者は欧米でイスラム教徒とキリスト教徒との対立を煽ってきた過激派組織「イスラム国」(IS)だ。IS側にはキリスト教徒攻撃を正当化できる理由ができたことになり、報復の連鎖が懸念されている。

事件のあったモスク付近で「全てのテロに反対する」というメッセージを掲げる人々(Photo by Dan Kitwood/Getty Images)

高笑いのIS

 19日真夜中に起きた今回のテロの容疑者はロンドンから200キロ離れたウェールズに住む47歳のダレン・オズボーン。オズボーンは4人の子供がおり、これまでイスラム嫌いの過激な言動を示したことはなかったという。治安当局の監視リストにも入っていなかった。

 しかし、犯行2日前には「イスラム教徒に危害を加える」といった発言をしていたといわれ、治安当局はロンドンなどで相次ぐイスラム過激派によるテロ事件に触発されて反イスラム感情を高めていった可能性があるとみて調べている。

 英国では、3月のロンドンの国会議事堂付近の車暴走テロ、5月のマンチェスターの爆弾テロ、6月初めのロンドン繁華街での車両テロなどが立て続きに起き、イスラム教徒への嫌がらせや迫害事件が多発していた。

 ロンドン市当局によると、6月初めのテロ以降の1週間で約120回に上る反イスラム事件が発生、前の1週間が36件だったのに比べ急増していた。今回の事件直後には、ロンドンの別のモスク(イスラム礼拝所)に脅迫電話がかかるなどイスラム教徒への嫌がらせや迫害が一段と増加しそうな状況だ。
 
 ロンドンにはカーン市長も含め100万人以上のイスラム教徒が居住しているが、「どこにいても安全ではない気がする」といった不安感がイスラム教徒コミュニティーに流れている。

 だが、こうしたイスラム教徒を追い詰める社会の分断に高笑いしているのがISだ。ISは機関誌やネット上で、欧米でのテロの目的を「イスラム教徒とキリスト教徒の分断を図ること」とし、イスラム教徒がキリスト教徒に迫害されれば、イスラム教徒には「2つの選択肢しかなくなる」と指摘。

 2つの選択肢について「イスラム教を捨てるか、あるいはISに加入するか」とし、テロによって欧米のキリスト教徒社会にイスラム教徒に対する忌避感情を人工的に作り上げ、社会から除外され、行き場を失ったイスラム教徒が過激派に依存せざるを得なくなる状況が生まれるのを目標にしてきた。

 パリのシャンゼリゼ通りでは19日、憲兵隊の車列に車を衝突させ、爆破しようとしたイスラム過激派によるテロ事件が起こっており、フランスでも反イスラム感情が高まっている。

 欧州でこうした感情が高まれば、社会の分断が進み、反イスラムのヘイトクライムも続発、テロの連鎖でさらに両教徒の対立が深まるという悪循環に陥りかねない。ISの狙い通りの展開になる懸念があるのだ。

 英国のメイ首相はイスラム教徒の過激化や極右のヘイトクライムの大きな原因の1つがネットでの過激なメッセージや、やり取りにあるとして、過激派の不審なメールなどを密かに読み、監視するためアップルやフェースブックなどに対し、治安機関がネット上で自由にアクセスできるよう協力を要請。この問題が過激派対策の大きな問題として浮上してきそう。


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