泥沼に引き込まれるトランプ政権
ISのテロはシリアやイラクでの戦況が悪化すれば、欧米で激化するという連関性が指摘されているが、その戦場ではISがいよいよ組織壊滅の瀬戸際に立たされている。2大拠点のうち、イラクのモスルでは、最後まで抵抗している数百人の戦闘員が、組織の指導者バグダディがISの創設を宣言した大モスクにまで追い詰められた。「あと2週間で一掃できる」(イラク軍)という状況だ。
シリアの拠点である首都ラッカでも、クルド人を主体とするアラブ民主軍(SDF)が米軍の空爆支援を受けて市内に突入、激戦となっている。ISはラッカの戦力を東南部のデイル・アルゾウル県に分散。将来的にはゲリラ戦を展開、生き残りを図る作戦だが、米国はラッカをまず制圧することを優先している。
トランプ政権のシリア政策は内戦に介入せず、ISの壊滅に集中するというのが骨格だが、その思惑とは裏腹に否応なくIS以後の主要国の覇権争いの泥沼に引きずり込まれようとしている。
その良い例が6月18日に起きた米軍機によるシリア軍機撃墜だ。シリアをめぐる紛争で米軍機がシリア軍機を撃墜したのは初めて。米軍はイラン支援の親シリア政府勢力が、米国の友好勢力、シリア民主軍(SDF)に肉薄したとして親シリア政府勢力を空爆していたが、撃墜事件はその延長線上にある。
しかしシリアのアサド政権を支援するロシアは19日、この撃墜を「国際法のあからさまな侵犯」と非難。シリア上空でのロシア軍機と米主導の有志連合軍機の衝突回避に使われていた取り決めを停止するとともに、米軍機が今後、ユーフラテス川西側のシリア領空で作戦を展開するなら、撃墜すると警告、米ロ衝突のリスクすら浮上する事態になった。
米ロの緊張とは別に、イランはこのほど東部シリアのIS支配地にイラン西部から数発のミサイルを撃ち込んだ。ISに対するイランのミサイル攻撃は初めてで、シリア内戦への軍事介入を本格化させている軍事力を見せつけた。米国はロシアとだけではなく、イランとも偶発的に衝突する危険性に直面している。
IS壊滅と主要国によるIS以後に向けた動きが激化する中、欧州ではイスラム過激派によるテロが多発し、それに対応して反イスラムのヘイトクライムが起きる懸念が高まってきた。混沌としたシリア情勢は欧州でのテロの連鎖を引き起こしながら、危機的な様相を見せている。
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