平安朝中期、越前守・大江雅致の娘として生まれ、和泉守橘道貞と結婚した和泉式部は、夫のいる身で、冷泉院の第三皇子・為尊親王と身分違いの恋に落ちる。親王の病没後、あらがえぬ宿命に導かれるかのように、為尊親王の弟・敦道親王(帥宮)とも深い仲となる。
帥宮と和泉式部の「恋のゆくたて」は、「和泉式部日記」に物語風にしるされている。二人がかわした多数の和歌が、恋の駆け引きを華麗にいろどり、うつろいゆく心理を如実にうかがわせる。
和泉式部は、夫・橘道貞とのあいだに子(小式部内侍)をなしたが、道貞とは別れ、親にも勘当される。和泉式部は、やがて宮邸に召人として仕え、帥宮の側で暮らすことになる。帥宮とのあいだにも若君が生まれるが、帥宮も兄・為尊親王とおなじく若くしてこの世を去る。
和泉式部は、その恋愛遍歴から「浮かれ女」(藤原道長)、「けしからぬ」女(紫式部)と周りから評されたが、和歌の才能は当代随一を謳われ、勅撰和歌集に計246首の歌が採られた。
本書は、歌人水原紫苑が、和泉式部と帥宮との「はかない恋」に焦点を合わせ、和歌の解釈をまじえつつ、和泉の生涯をたどった書き下ろしの物語。引用歌は、約180首。