人口問題という言葉は私たちに負のイメージを与えている。そして、この言葉はしばしば食糧危機とか貧困という言葉と結びついて語られている。
おおかたの予測によれば、地球人口は21世紀後半には100億の大台に達するのは避けられそうもない。この増加が、途上国で起きることもまちがいない。そのうえ、21世紀に途上国の人びとの生活水準を少しでも向上させようとすれば、私たちはきわめて難しい問題に直面していることになる。
この問題を解決する処方箋づくりは簡単ではないであろう。しかし、そのために不可欠な、地球人口がどのような経緯をたどって膨張してきたのかさえ、十分に理解されているとはいいがたい。人口増加率は、移住がない条件ならば出生率と死亡率によって決定される。こういうと話は単純そうにみえるが、人類の歴史のなかで出生率と死亡率は大きく変化してきたし、地域や集団による違いもきわめて大きい。関連する要因には生物学的なものも社会文化的なものも含まれるし、近年になれば国や国際機関の政策も強く関与している。それ以上に重要になりつつあるのは、出生率を左右する個人あるいは夫婦の意思決定であろう。
人口問題を分析する際に最も基本となるのは人口学の手法である。狭義の人口学は形式人口学とも呼ばれ、出生率や死亡率をはじめとする人口動態の指標を数量的に解析するものである。一方、広義の人口学と呼ばれるものは、経済学、社会学、地理学、人類学、心理学、医学、生物学などと関連が深く、様々な視点から人口動態を意味づけることに主眼がおかれている。本書は広義の人口学と重なる部分があるものの、一般の人口研究の範囲を逸脱した部分も多い。「地球学」というコンテクストのなかで、人口のもつ意義を浮かび上がらせようとしたからである。(まえがきより)