<好評4刷>(2011年2月)
役行者(えんのぎょうじゃ)とは何者か?歴史的な記録は『続日本紀』(七九七年)のわずか一か所に記載されているだけです。ところが、わずか二十数年のちの説話集『日本霊異記』で、役行者は「誠に知る、仏法の験術広大なることを」とまで絶賛され、、超人的な山林修行者としておびただしい数の伝承が生まれ、近世の歌舞伎、浄瑠璃、さらに近代の小説・戯曲等々で庶民の憧れの宗教者として物語化されてゆきます。
修験道は、山を修行の道場としてきました。修験者は、山岳を形成する樹木・岩・水の流れ・滝等々に向き合い、草木虫魚と一体となった風が生みだす“気”ともいうべきものに心身をゆだねてきました。この修験者の山中における行――大峯山の奥駈け修行、熊野那智の火祭り、比叡山の千日回峰行――は、「命と向き合う感覚」を人間に呼びさまします。修験道は、世界が命の連鎖によって成り立ち、その意味で、けっして人間だけが特別であるわけでも、他の生命を支配し、その生殺与奪の権利を持っているわけでもないことを、その祈りの実践のなかに示してきた宗教といえるでしょう。修験道が「宗教はどこに始まったのか」という問いの前に、いかに現代的な意味を持っているかという今日性もここにあります。
本書は、伝説的な異貌の聖・役行者、山林修行者としての最澄・空海らを通して、修験道の今日性と日本人の信仰の原点を探る待望の書き下ろしです。