2024年12月22日(日)

海野素央の Democracy, Unity And Human Rights

2017年7月11日

 今回のテーマは「トランプの100のウソ」です。米ニューヨーク・タイムズ紙(2017年6月25日付)は、ドナルド・トランプ米大統領が同年1月20日の大統領就任式から6月21日までの153日間に、ツイッターに投稿した内容を調査しました。その結果、100個にものぼる「ウソ」を発見したのです。本稿では、同紙が掲載した100個のウソを分類した上で、トランプ大統領の狙いと今後の課題について考えます。

(mars58/iStock)

手柄のウソ

 トランプ大統領の100個のウソにはある傾向が存在します。同大統領のウソは、主として手柄(19回)、オバマ前大統領(12回)、メディア(10回)及び、数字(7回)に4分類できます(図表)。まず、手柄からみていきましょう。

 4月28日、トランプ大統領はF-35戦闘機について「私は交渉に携わることで7億2500万ドル以上を削減した」とツイッターに投稿しました。ニューヨーク・タイムズ紙によれば、実際は同大統領就任前に、ほとんどの削減が決まっていたのです。トランプ政権前から見積もられていたのにもかかわらず、翌日29日にもF-35戦闘機に関して「私が交渉をして値下げをした」と書き込んでいます。同大統領は「自分がやった」というメッセージを発信して、手柄を自分のものにするのです。

オバマを巡るウソ

 次に、オバマ前大統領を巡るウソについて説明します。1月25日、トランプ大統領はオバマ大統領(当時)が地元のシカゴで演説を行った時、2人が銃撃でなくなったとツイッターに投稿しています。その日、シカゴでは銃撃事件はありませんでした。

 トランプ大統領のオバマ前大統領に関するウソは続きます。3月4日、同大統領は「ひどい!選挙の勝利直前にオバマがトランプタワーを『盗聴』していた」とツイッターに書き込みました。しかし、盗聴の証拠はありません。

 2016年米大統領選挙で、トランプ陣営とロシア政府が共謀していたのではないかという「ロシアゲート疑惑」から米国民の関心をそらす意図で、トランプ大統領は「オバマのトランプタワー盗聴」というウソをついたのでしょう。筆者がワシントンで下院外交委員会に所属するジェリー・コノリー議員(バージニア州・第11選挙区)にヒアリング調査を行った時、同議員もそのようにみていました。このウソは不発に終わりました。

 トランプ大統領が、ツイッターでオバマ前大統領の医療保険制度改革法(通称オバマケア)を標的にしてウソを繰り返している点も看過できません。例えば、3月13日同大統領はオバマケアが「ごく少数しか対象になっていない」と投稿しました。事実は異なります。オバマケアの下で、約2000万人が保険に加入できました。

 米議会予算局の試算では、オバマケアに対する上院共和党の代替法案では、それが施行されますと10年間で約2200万人が無保険者になります。勿論、トランプ大統領はこれに関して自身のツイッターに投稿していません。

 トランプ大統領はオバマ前大統領がアフリカで生まれたので、大統領になる資格がないと繰り返し主張してきました。オバマ氏が出生証明書を見せた後は、資格に関する批判を控えています。トランプ氏にはオバマ氏に対する執着心があることが、同氏を巡るウソの投稿からはっきり読み取れます。

メディアのウソ

 さらに、メディアに関するウソも取り挙げてみましょう。トランプ大統領は、殊に米CNNテレビ及びニューヨーク・タイムズ紙を標的にしています。相撲で喩えれば、2社をフェイク(偽)ニュースの東西の横綱に置いています。

 2月4日、トランプ大統領はツイッターに「私が当選後、ニューヨーク・タイムズはフェイクニュースで謝罪に追い込まれ負けたのだ」と投稿しています。この書き込みに関してニューヨーク・タイムズ紙は「決して謝罪していない」と反論しています。2日後、同大統領は同紙について再度「読者に私の当選後、謝罪を迫られた」と書き込んでいます。これに対しても、同紙は事実ではないとして否定しています。

 「潜入!トランプタワー、信者たちの正体」で紹介しましたが、大統領就任式の前にニューヨーク市にあるトランプタワーで熱狂的なトランプ信者を対象にヒアリング調査を実施しました。その際、白人男性の信者の一人が「彼(トランプ)は決してウソをつきません」と断言していました。驚いたことに、この男性には「トランプ=真実、メディア=フェイク」という公式が成立していたのです。


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