海野素央の Love Trumps Hate

2017年7月1日

»著者プロフィール
著者
閉じる

海野素央 (うんの・もとお)

明治大学教授、心理学博士

明治大学政治経済学部教授。心理学博士。アメリカン大学(ワシントンDC)異文化マネジメント客員研究員(08~10年、12~13年)。専門は異文化間コミュニケーション論、異文化マネジメント論。08年及び12年の米大統領選挙においてオバマ陣営にボランティアの草の根運動員として参加。16年米大統領選挙ではクリントン陣営に入る。著書に「オバマ再選の内幕―オバマ陣営を支えた日本人が語る選挙戦略」(同友館)など多数。

 今回のテーマは「政治指導者の演説―安倍、トランプ、オバマ、クリントン」です。演説の上手な政治指導者は、言語と動作、空間及びアイコンタクト(視線の一致)を含めた非言語を効果的に組み合わせてメッセージを発信します。

(iStock)

 本稿では、安倍晋三首相、ドナルド・トランプ大統領、バラク・オバマ前大統領並びにヒラリー・クリントン元国務長官を取り挙げ、それぞれの政治指導者の演説の特徴を言語及び非言語の両面から分析します(図表)。

メッセージ性の高い安倍の演説

 2017年1月20日に行われた安倍首相の施政方針演説からみていきましょう。まず天皇陛下の公務負担削減について語った後、真珠湾で「全ての御霊(みたま)に、哀悼の誠を捧げた」と述べました。明らかに、保守派の支持層を意識したメッセージです。

 次に日米同盟にテーマを移し、かつて敵であった日本と米国が「和解の力」によって強い絆で結ばれたと強調します。日米同盟は紛争を起こしている国の模範になるというメッセージです。安倍首相は和解の力について米議会、広島平和記念公園及び真珠湾においても言及し、一貫性のあるメッセージを世界に発信しています。

 さらに、北朝鮮の核実験・ミサイル発射に対しては「断じて容認できない」と主張し、強いリーダーを演出しています。断固とした不容認の姿勢によって、保守層のみならず北朝鮮の挑発的行動に対して怒りや不安を抱いている幅広い層を取り込むことができます。

 施政演説では、前政権との比較も重要なメッセージになっています。安倍首相が有効求人倍率及び外国人観光客の増加に訴える狙いは、どこにあるのでしょうか。率直に言ってしまえば、一部の有権者が持っている前政権は「ひどかった」という印象を維持することです。

 それらに加えて、演説の中でストーリーテリング(物語を語る)という手法を用いています。例えば、被災地の南相馬市に足を踏み入れ、そこで出会った被災者が語ったストーリーを演説に組み入れています。ストーリーテリングには演説者と視聴者ないし被災者との心理的距離を縮め共感を得るという効果があります。

 以上、安倍首相の演説における優れた点を挙げてみましたが、改善点も存在します。2016年12月27日真珠湾で声のスピードを落として、格調の高い演説を行いました。その演説の中で、「耳を澄まして心を研ぎ澄ますと、風と波の音とともに、兵士たちの声が聞こえてきます」と語り目を閉じる動作を複数回行っています。翌年の施政方針演説では、人差し指を立てて「1つ1つ結果を出していく」と強調しています。どの場面でどのようなジェスチャーを見せるのか練習をしたのでしょう。同首相の動作は自然に見えない時があります。それに対して、オバマ前大統領及びクリントン元国務長官の動作は自然でスムーズです。トランプ大統領の動作は、不自然には見えないのですが戦略的です。それらに関しても以下で説明しましょう。

関連記事

  • PR
  • 新着記事

    »もっと見る