海野素央の Love Trumps Hate

2017年6月5日

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海野素央 (うんの・もとお)

明治大学教授、心理学博士

明治大学政治経済学部教授。心理学博士。アメリカン大学(ワシントンDC)異文化マネジメント客員研究員(08~10年、12~13年)。専門は異文化間コミュニケーション論、異文化マネジメント論。08年及び12年の米大統領選挙においてオバマ陣営にボランティアの草の根運動員として参加。16年米大統領選挙ではクリントン陣営に入る。著書に「オバマ再選の内幕―オバマ陣営を支えた日本人が語る選挙戦略」(同友館)など多数。

 今回のテーマは「一人ぼっちのトランプ」です。ドナルド・トランプ米大統領は、地球温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」からの離脱を表明しました。その反動は大きく、トランプ大統領は各国の政治指導者及び経営者から批判を浴びています。本稿では、離脱表明の演説内容から何を読み解くことができるのかを中心に述べます。

バノングループの勝利

ホワイトハウス前でパリ協定離脱を歓迎する人々(Photo by Aaron P. Bernstein/Getty Images)

 米メディアはパリ協定を巡り、政権内における離脱派と残留派の間で激しい駆け引きがあったと報じています。離脱派は大統領上級顧問兼首席戦略官のスティーブン・バノン氏及びスコット・プルイット環境保護局長官らです。一方、残留派には大統領の長女イバンカ大統領補佐官、レックス・ティラーソン国務長官、ゲーリー・コーン国家経済会議委員長及びジェームズ・マティス国防長官らが含まれています。「ロシアゲート疑惑」の中心人物となっている娘婿のジャレッド・クシュナー大統領上級顧問は、パリ協定は米国に不利益をもたらす「悪い取引」だと捉えて再交渉の立場をとったと言われています。 

 まず、演説の中でトランプ大統領は声のスピードを落としながら効果的に表情と間を使って、パリ協定離脱を表明しました。次に、米国にとって公平な協定に修正するための再交渉について言及しました。 

 その背景にはバノン・クシュナー両氏の主張のバランスをとったというトランプ大統領の意図があるわけですが、離脱の印象が強烈であったことは間違いありません。ホワイトハウスのローズガーデンでトランプ大統領が「パリ協定離脱」という言葉を発すると、即座に最前列にいたバノン氏は同大統領に向かって熱烈な拍手を送っていたからです。離脱の勝利を祝う拍手です。

ホワイトハウスのパワーシフト

 バノン氏は「影の操縦者」と言われてきましたが、オバマ前大統領の医療保険制度改革(通称オバマケア)に対する代替案が撤回され、さらに国家安全保障会議(NSC)常任メンバーから外されると同氏の影響力は低下していきました。シリアミサイル攻撃に関して「グローバリスト(国際主義者)」のクシュナー氏と比較すると、「経済ナショナリスト(国家主義者)」のバノン氏の影響力の衰えは顕著に現れていました。ところが今回のパリ協定離脱により、バノン氏が復活し同氏の影響力が増加する可能性が高くなってきたのです。

 2017年3月ワシントンで下院外交委員会に所属するジェリー・コノリー議員(民主党・バージニア州第11選挙区)を対象にインタビューを実施すると、同議員はホワイトハウスにおけるバノン氏とクシュナー氏の影響力について増加と低下を繰り返すとみていました。米メディアは、米連邦捜査局(FBI)がクシュナー氏をロシアゲート疑惑解明のカギを握る人物として捜査対象にしたと報じています。今後、同氏の影響力は低下していくとみてよいでしょう。

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