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2017年9月11日

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樫山幸夫 (かしやま・ゆきお)

産經新聞前論説委員長

産經新聞前論説委員長。政治部で中曽根首相番、竹下幹事長番、霞クラブ(外務省)詰め、ワシントン特派員、同支局長、外信部次長、編集局次長、正論調査室長兼論説委員などを経て、2015年6月から産経新聞社監査役。2度のワシントン勤務時代は、ホワイトハウス、国務省などを担当、米国の内政、外交など幅広く取材した。

 北朝鮮建国記念日の9月9日、ミサイル発射など”ありがたくない引き出物”はなかった。しかし、まだ油断はできない。

 金正恩があらたな挑発に出るのか、トランプ大統領の堪忍袋の緒が切れて軍事攻撃に踏み切るのかーー。北朝鮮の核危機は、一触即発の状態がなお続く。暴挙を押さえる手立てがない苦しい中、“劇薬”として、米国内で、日本や韓国の核武装論が台頭している。日本国内でも、自民党の石破茂元幹事長が、米軍の核の国内配備について議論すべきだという考えを示し、この問題に一石を投じた。わが国が核兵器を保有すれば、北朝鮮だけでなく、その“兄貴分”の中国も大きな衝撃を受けるだろう。

(Goldcastle7/iStock)

 中国は、北朝鮮に核を放棄させるための説得役として期待されながら、のらりくらりとして、各国の反発を買ってきたが、「日本が核武装」となると、その怖さに、本腰を入れて北朝鮮に圧力をかけるかもしれない。

中国が怯える「強い日本」

 9月3日の産経新聞に興味深い記事が掲載された。黒瀬悦成ワシントン支局長の署名入りの記事は、米国内で、北朝鮮に核開発を断念させることは不可能という見方が強くなっていることに言及。その前提で、日韓の核武装を容認し、それによって北朝鮮の核に対抗するーという議論が勢いを増しつつあると伝えている。民主党系のシンクタンク「ブルッキングス研究所」の研究員による、「日韓の核武装を認め局地的な衝突も辞さない構えで、北朝鮮を封じ込める」との主張、米国の別な軍事専門家の「日本が自前の核兵器を持てば、すべての民主国家は安全になる。強い日本は中国の膨張を阻止する」という積極的な日本核武装支持論も紹介している。 

 反面、米外交界の長老、キッシンジャー元国務長官のように、北朝鮮の核脅威が深刻になれば、日韓だけでなく、ベトナムなど、核兵器で自らを守ろうとする動きが活発化するーーという「核ドミノ」への警戒感が存在することにも触れている。

 一方、石破幹事長の発言は、今月6日、民放テレビの番組で飛び出した。「米国の“核の傘”で守ってもらうといいながら、日本国内には(核兵器を)置かないというのは正しいのか」と現状に疑問を投げかけ、「持たず、作らず、持ち込ませず、議論せず、ということでいいのか」とも述べ、非核三原則の見直しに言及した。

 石破発言は、日本が自前で核開発を進めるという趣旨ではないが、国是としてきた三原則に疑念を呈した発言であり、波紋を呼んだ。案の定、管義偉官房長官は記者会見で「これまで(三原則の)見直しの議論はしておらず、これからもすることは考えていない」と明確に否定した。

かつては安倍首相も言及

 「日本核武装」が台頭するのは、これが初めてではない。

 少し古い話だが、北朝鮮が枠組み合意を破棄して核開発を再開した直後の2003年1月、米紙ワシントン・ポストに、「ジャパン・カード」という見出しで、「日本の核武装が北朝鮮への対抗手段」というコラムが掲載された。筆者は保守派の論客、チャールズ・クラウトハマー氏だった。コラムは「米国が北朝鮮への武力行使に消極的である理由のひとつは報復を恐れているため」と指摘。

 「北朝鮮を外交的、経済的に孤立させようという手段も、韓国、中国が協力するかわからない状況では、効果を期待できない」と、当時のブッシュ政権(共和党、子)の政策を批判した。そのうえで、「こういう苦しい状況の中では、日本に自ら核武装させるか、米の核ミサイルを日本に提供して北朝鮮と、それを支援する中国に対抗させることこそ、唯一の有効なカードになり得る」と主張した。

 この議論が日本国内にどの程度の影響を与えたかは明らかではないが、その後、2006年には、日米の政府間で、表沙汰にこそされなかったが、議論されている。しかも、そのときは、第1次政権を担っていた安倍晋三首相が、コンドリーザ・ライス米国務長官(当時)に直接、提起したという。

 ブッシュ政権2期目で国務長官を務めたライス氏の回顧録によると、2006年10月に訪日、官邸を表敬した時のこと。

 安倍首相は「日本が核開発に手をつけるという選択肢は絶対にあり得ない」としながらも、「それを望む声も多いのは事実だし、しかも、その声は次第に大きくなっている」と日本国内の空気を伝えたという。

 回想録の中でのやりとりはそれだけで、ライス長官がどう答えたのかなどは明らかではないが、ライス女史は、「日本でそういう声があがることは意味がある。北の核開発を野放しにすれば大変なことになると中国も思い知るだろう」とコメントしている(『ライス回顧録』集英社)。

 そう、中国なのだ、日本の核武装論をもっとも気にするのは。中国が戦後ずっと恐れてきたのは、最近こそあまり口にしなくなったが、“日本軍国主義”の、復活だ。日本からみれば、軍国主義復活など、とんだ取り越し苦労だが、実のところ、「強い日本」を中国はもっとも恐れている。

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