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2017年9月22日

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崔 碩栄 (チェ・ソギョン)

ジャーナリスト

1972年韓国ソウル生まれ。韓国の大学で日本学を専攻し、1999年渡日。関東地方の国立大学で教育学修士号を取得。日本のミュージカル劇団、IT会社などで日韓の橋渡しをする業務に従事する。現在、フリーライターとして活動、日本に関する紹介記事を中心に雑誌などに寄稿。著書に『韓国人が書いた 韓国で行われている「反日教育」の実態』(彩図社刊)、『「反日モンスター」はこうして作られた-狂暴化する韓国人の心の中の怪物〈ケムル〉』(講談社刊)がある。

 一方、タクシー運転手 金砂福は光州事件以降の行跡がほとんど知られていない謎の人物だ。しかし、ヒンツペーターの自叙伝によると、金砂福は映画に描かれていたように金浦空港で”偶然”彼をタクシーに乗せたのではなく、入国する前から彼を乗せるために空港に待機しており、光州に移動しながら、光州の状況について金砂福から説明を受けたと記載されているのだ。ヒンツペーターがどのような経緯で金砂福を知り、連絡をとったのかについては不明だ。それゆえに、ヒンツペーターと韓民統、朝鮮総連の「連携説」を主張する人たちは金砂福が朝鮮総連や韓民統のスパイだと主張するのだが、彼の行跡が霧の中に隠れてしまっているために証明することもできず、それらの主張は「陰謀論」という批判を受けてきたのである。

 実は、韓国では、これ以外にも光州事件には北朝鮮や朝鮮総連が直的・あるいは間接的に介入したという説が、常々囁かれ続けてきた。例えば直接的な介入説を主張したのは元陸軍大領で評論家の池萬元氏である。彼の説は「金大中氏と手を組んだ金日成が特殊部隊を光州へ送り、武装蜂起を起こした」というものである。

 しかし、韓国の「民主化運動」を象徴する事件としてとして認められた光州事件に対してそのような主張をするのはタブーだ。反社会的な「陰謀論」は当然バッシングの対象である。実際、池萬元氏は告訴され、名誉損害で有罪判決を受けている。

映画のヒットで偶然に浮上した、1974年「文世光事件」との関連性

 しかし、映画『タクシー運転手』の大ヒットで、このような韓国社会の「常識」が大きく揺らいでいる。「金砂福」への世間の関心が高まり、金砂福という人物がどのような人間だったのか、彼の行跡を辿ろうとする人々が現れ、調べていくうちに、仰天するような新聞記事にぶち当たったのである。それは東亜日報の「文世光事件」についての記事である。

 文世光事件とは1974年の光復節(8月15日、終戦記念日)の記念式典で在日韓国人 文世光(ムンセグァン)が朴正煕を暗殺しようと客席から壇上に向け銃を乱射。朴正煕は無事だったが、彼の隣に座っていた令夫人、陸英修に銃弾が当たり死亡したという事件だ。犯行に使われたのが日本の派出所から消えた拳銃であった為に、韓国内では日本に対する批判の声があがり、これに対して日本政府は責任の一端を認め、当時の首相、田中角栄の親書を携えた椎名悦三郎を特使として訪韓させるなどの対応を取った。事件は両国の間に大きな波紋を投げかけた。

 事件の実行犯 文世光は1951年に大阪で生まれた在日朝鮮人で、事件当時の韓国政府の発表によると「朝鮮民主主義人民共和国が影響力を持っていた日本の海外同胞団体、在日本朝鮮人総連合会の指令を受けた」としている。文世光は同年12月に韓国大法院において死刑を宣告され、宣告のわずか3日後に処刑された。

 1980年に発生した光州事件となんの関係もないように見える1974年の文世光事件であるが、驚くべきことに、1974年の事件記事の中に「金砂福」という名前が登場していたのである。

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