今季のパ・リーグMVP、ソフトバンクの守護神デニス・サファテが選ばれる可能性が高い。今季はリーグ最多の63試合に登板し、中日・岩瀬仁紀、阪神・藤川球児の持つ46セーブを大幅に更新する51セーブの日本新記録を達成。3年連続セーブ王のタイトルを獲得し、2年ぶりの優勝に最も貢献した投手であることは誰もが認めている。
同じソフトバンクの主砲・柳田悠岐が打撃タイトルの打率、打点、本塁打のうち、どれか一つか二つでも獲得すれば、日本人ということもあり、こちらに投票資格のある野球記者(私もそのひとり)の票が集まるかもしれない。が、20日の日本ハム戦で右脇腹を痛め、右腹斜筋損傷と肋間筋損傷で全治3週間との診断が下った。今季終了までの復帰は難しく、打点と本塁打はすでにチームメートのアルフレド・デスパイネの後塵を拝している。
そうした事情からサファテがMVPに選ばれれば、外国人の抑え投手としては史上初となる。ちなみに、外国人投手でMVPを受賞したのも、1リーグ制では1939年のヴィクトル・スタルヒン、2リーグ制以降では1964年のジョー・スタンカしかいない。スタンカはソフトバンクの前身・南海ホークスのエースだったから、サファテがMVPになったら、53年ぶりにチームの先輩に次ぐ栄誉に浴すことになる。
サファテを見ていてつくづく感じるのは、抑えとしてのプライドの高さである。今季、8月1日のオリックス戦で延長十二回の末にサヨナラ本塁打を打たれて負け投手となった試合後、サファテはこうコメントした。
「最近は、先発投手が早い回で降りる試合が続いている。そのツケは後ろに回される。リリーフはみんな疲れてるんだ。首脳陣は先発にもっと長い回を投げさせてほしい」
これが首脳陣批判と解釈され、ファンの間で物議を醸していた最中、サファテは秘かに工藤公康監督の下を訪ねて行き過ぎた発言であったことを謝罪。すると工藤監督が「おれのほうこそ悪かった」と頭を下げ、「先発陣にはもっと頑張るように言っておく」と約束したのだ。さらに、達川光男ヘッドコーチもサファテに対し、「あの発言は本来ならわしら首脳陣が言わなきゃいかんこと。よくぞ言ってくれた」と感謝の意を伝えている。
サファテは自分に負けがついたり、防御率が上がったりしたから文句を言ったわけではない。抑えとしてしっかり働きたいからこそ、チームの上司と僚友に注文を付けたのだ。
気を取り直したサファテはその後、リーグタイ記録となる17試合連続セーブをマークする。あと1試合続ければ新記録となるが、そのころいよいよチームの優勝決定が迫ってきた。その試合で4点以上リードしていて、セーブがつかない状況で九回に登板すれば、連続セーブ記録は途切れてしまう。が、このとき、サファテはこうコメントした。
「何点リードしていても、優勝が決まる試合で最後に投げるのはぼくだ。記録やタイトルは関係ない。ぼくはチームの勝利のためにここまで投げてきたんだから」