あたり一面に緑が広がる山梨県甲州市の果樹栽培地域。露地やハウス内の木々には、大きく実ったマスカットが生(な)っている。JAフルーツ山梨が管轄するこの地域は県の果樹生産量の4割以上を占める果樹の一大産地だ。ぶどうや桃を栽培する農家がほとんどで、近年人気が出てきている「シャインマスカット」を栽培する農家も多い。しかし、この地域でも農業従事者の高齢化が進行し、農業人口の減少が問題となっている。そこで、地域内では、ITを利用して新規参入のハードルを下げる取り組みが行われている。
「これまでは温度や土壌の水分量の管理は経験と勘でやっていたが、今では全て数値化されるので、どうすれば質の良い果実ができるのかが分かりやすくなる。そうしたデータがあれば、若い人も農業がしやすくなる」
そう話すのは、この地域で30年以上農業を続ける手島宏之さん(61歳)だ。手島さんは1ヘクタールほどの農地でシャインマスカットの露地、ハウス栽培を行っている。今春からハウス内に、温度、湿度、日射量、土壌水分量、二酸化炭素濃度をセンサーで常時計測し、自動でデータ化する「みどりクラウド」というシステムを導入している。データ化された情報はスマホやPCでいつでも簡単に見ることができ、同じサービスを使用する農家同士でデータ共有を行うこともできる。
今年3月、ぶどう農家10軒と山梨市、JAフルーツ山梨、NTT東日本、バイオベンチャー企業のシナプテック(甲府市)が協力し、同システムを用いて、良質な果物が育つ環境の分析を始めた。手島さんも協力者の1人だが、「果実の質を高めることに加え、自分たちがこれまで経験して得た知識、ノウハウをデータ化して次世代に残せる効果も非常に大きい」という。
みどりクラウドを販売するIT企業セラク(新宿区)の新谷賢治氏によれば、購入者は、新しく農業を始める人や親から農地を引き次ぐ若手が多く、「親のノウハウをデータで残したい、成果が出るまでの時間を減らすためにデータを取って勉強したい」という購入理由がほとんどだという。
農作業をデータ化することで、より効率的にノウハウを継承、蓄積したいという若手農家が多いことがうかがい知れる。