田部康喜のTV読本

2017年11月24日

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田部康喜 (たべ・こうき)

東日本国際大学客員教授

福島県会津若松市生まれ。幼少時代から大学卒業まで、仙台市で暮らす。朝日新聞記者、朝日ジャーナル編集部員、論説委員などを経て、ソフトバンク広報室長に就任。社内ベンチャーで電子配信会社を設立、取締役会長。2012年春に独立、シンクタンク代表。2015年10月から東日本国際大学客員教授として地域振興政策を研究、同大・地域振興戦略研究所副所長を兼務。

 「その門の前に来たとき、保本登(やすもと・のぼる)はしばらく立ち停まって、番小屋のほうをぼんやりと眺めていた。宿酔(ふつかよい)で胸がむかむかし、頭がひどく重かった。

 『ここだな』と彼は口の中でつぶやいた、『小石川養生所(ようじょうしょ)か』」

                        (山本周五郎「赤ひげ診療譚」)

 黒澤明監督の名画「赤ひげ」に挑む同名のドラマが、BSプレミアムで第1回「新人医師来たる」(11月3日・毎週金曜夜8時)から始まった。冒頭の引用は、幕府が無料で庶民の病人に対して治療をほどこす養生所の門をくぐる場面である。

 ヴェネツィア国際映画祭(1965年)において、男優賞を受賞した三船敏郎が演じた、養生所の医長である「赤ひげ」と呼ばれる新出去定(にいで・きょじょう)役には、船越英一郎が、加山雄三が演じた新人医師の保本登役には中村蒼が起用された。

(iStock/NalYukoY)

ドラマの出演者たちは、映画を意識しているだろう

 長崎遊学によってオランダ医学を修めた、保本(中村)は3年余りを経て江戸に戻ると、町医者の父親から養生所に行くことを命じられる。遊学中に婚約していた天野ちぐさ(MAYUMI)は他の男のもとに去っていた。保本は傷心が癒えないままに、養生所の暮らしを始める。

 山本周五郎の代表作である「赤ひげ診療譚」は、映画もドラマも、赤ひげと養生所に集う医師や賄い婦、貧困にあえぐ庶民たちに囲まれながら、保本が成長していく「教養小説」といえるのではないだろうか。教養小説は、ドイツの若者を主人公として「自己形成小説」とも呼ばれる。

 ドラマは、オムニバス風にひとつのエピソードを取り上げながら進行する。第1話は、保本が赤ひげ(船越)に反発して、治療にもあたらず、酒を飲んで暮らしている。

 保本が唯一興味を抱いたのは、養生所の敷地のなかにある建物の座敷牢に閉じ込められている、美貌の娘おゆみ(宮澤美保)だった。大店(おおだな)の娘である、おゆみは、手代2人を自分の簪(かんざし)で刺殺し、1人に重傷を負わせた。気うつ症の患者である、おゆみは、座敷牢から抜け出し、保本の部屋に入り込む。子どものころにいたずらされたことなどを物語るうちに、保本の胸元に泣き崩れる。そうしながら、簪を保本の首筋に当てるのだった。

 保本が、気がつくと布団に寝かされ、首には包帯が巻かれていた。往診から帰ってきた、赤ひげに間一髪救われたのである。

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