安保激変

2017年11月30日

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小谷哲男 (こたに・てつお)

日本国際問題研究所 主任研究員

1973年生まれ。同志社大学大学院法学研究科博士課程満期退学。ヴァンダービルト大学日米関係協力センター客員研究員、岡崎研究所特別研究員等を歴任。専門は日米同盟と海洋安全保障。法政大学非常勤講師及び平和・安全保障研究所・安全保障研究所研究委員を兼務。中公新書より海洋安全保障に関する処女作を出版準備中。

 29日未明、北朝鮮が約2か月半ぶりに弾道ミサイルを発射した。通常軌道より高く打ち上げるロフテッド軌道で大陸間弾道ミサイル(ICBM)を発射し、日本海の日本の排他的経済水域に着水した。最高高度はこれまでで最も高い4475キロメートルで、通常軌道での発射であれば射程距離が1万キロメートルを超え、米国の首都ワシントンをその射程に収めるとみられる。北朝鮮はこの新型ミサイルが「火星15号」で、大型の核弾頭を搭載できると発表し、米本土全体をその射程に収めると主張している。射程距離は伸びたが、一番重要な弾頭の大気圏再突入技術については、まだ完成していない可能性が残っている。

(写真:ロイター/アフロ)

 北朝鮮がしばらくの間ミサイル発射をしなかったことについて、経済制裁が効果を上げている、あるいは米国の「先制攻撃」を恐れているという分析が示されてきた。さらには、自制をして米国との対話のタイミングを見計らっているという見方や、中国共産党の全国党大会やトランプ大統領のアジア歴訪に配慮したという楽観論もあった。しかし、この間も北朝鮮はミサイルエンジンの実験を続け、着実に技術開発をしており、以上のどの分析も誤りであったことが明らかとなった。

 火星15の発射についても、トランプ政権が8年ぶりに北朝鮮をテロ支援国家に再指定したことに対する反発との見方が出ているが、それは誤りであろう。トランプ政権が北朝鮮をテロ支援国家に再指定したのは、象徴的な動きではあるが、米国がさらに中国企業などへの独自の二次的制裁を強化し、他国にも同様の措置を求める目的がある。だが、北朝鮮は米本土を核攻撃できるICBM能力を手に入れることを当面の目標としており、どのような圧力にも屈せず、対話にも応じる見込みはない。トランプ大統領の強硬な発言や、テロ支援国家への再指定があろうとなかろうと、より信頼性のある核攻撃能力を獲得するため、粛々と技術開発を継続するだけであることが改めて確認されただけである。

ホワイトハウス内では強硬派が勢いを増している

 トランプ大統領は、アジア歴訪に当たって北朝鮮に対する圧力の強化を地域各国に訴えた。特に、中国では習近平主席に北朝鮮への圧力強化を強く働きかけた。ホワイトハウス内では、中国が北朝鮮に対して効果的な影響力を行使することを期待する声はほとんど失われたが、訪中前にトランプ大統領自身はまだ諦めていなかった。トランプ大統領訪中後、習主席は特使を北朝鮮に派遣したが、金正恩委員長に会えず、核ミサイル開発をめぐって丁々発止のやり取りが繰り広げられたと伝えられている。これによってトランプ大統領自身も、習主席への期待を考え直すきっかけになるかもしれない。

 また、ホワイトハウス内では、北朝鮮との対話についても否定的な考えが根強い。北朝鮮が米国との対話に関心を示していないため、外交を担当する米国務省は圧力の先にある対話をどのように構築するか難しい課題に直面している。国務省のユン北朝鮮担当特別代表は、「60日間挑発行為を自制することが米朝対話の条件になり得る」という考えを非公開の場で示していたことが報道された。しかし、ホワイトハウス関係者は、これは政権の意向を全く反映していないと言う。

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