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2017年12月20日

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中島恵 (なかじま・けい)

ジャーナリスト

1967年山梨県生まれ。新聞記者を経てフリージャーナリスト。主な著書に『中国人エリートは日本人をこう見る』『中国人の誤解 日本人の誤解』(ともに日本経済新聞出版社)、『爆買い後、彼らはどこに向かうのか?』(プレジデント社)、『なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか?』『中国人エリートは日本をめざす』(ともに中央公論新社)、『なぜ中国人は財布を持たないのか』(日本経済新聞出版社)などがある。

 「一体、どうしたんだろう……?」

 最初にそう感じたのは、おそらく2014年末か2015年初めくらいだっただろうか。上海市内で偶然通りかかった公衆トイレを見て「ずいぶんきれいになったな」と感じたのだ。

上海の高級ホテルのトイレ

 正確な時期はわからない。だが、今振り返ってみれば、中国で爆発的にスマホ人口が増えて、社会が大きな転換点を迎えていた時期とピッタリ重なっていたように感じる。

 今年11月末、習近平国家主席が全国各地のトイレを整備する「トイレ革命」を推進するよう通達を出したことは、日本でも大きく報じられた。「トイレ革命」とはずいぶん勇ましいネーミングだが、中国語でもそのまま「厠所革命」または「洗手間革命」と書く。まさに国家を挙げての大号令であり、政府がここまで大々的に発表したからには、1年後、おそらく中国の都市部に限っては、トイレが日本以上にきれいになっている可能性もある。信じられないかもしれないが、それくらいの猛スピードで、中国のトイレは目覚ましく変わっている。もはや「中国のトイレ=汚い」と外国人にいわせないほどの勢いだ。

ひとつの転換点は北京オリンピック

 中国のトイレといえば、皆さんは何をイメージするだろうか?

 あまりにも有名なのが「ニーハオトイレ」だ。隣のトイレとの境目がなく、ただ便器が横にいくつも並んでいるだけ。隣で用を足す人に「ニーハオ」と声を掛けられるという意味で名づけられたものだ。もちろん、当の中国人はそういうトイレを「ニーハオトイレ」とは呼ばない。外国人にこういう名前で揶揄されていたことさえ、長い間知らなかっただろう。ほかにも、農村に行けば、納屋全体がトイレになっているもの、穴が開いているだけのもの、穴の下に豚がいて、ブーブーいいながら汚物を待ち構えているもの、1本の細い川だけ(川にまたがってトイレをする)のものなど………およそ、それをトイレと呼んではいけないだろう……というようなものまであった。

 私自身、30年以上も中国に通っているので、中国での壮絶なトイレ体験は数えきれない。今でも鮮明にその光景を思い出すことができる。前述したトイレはすべて体験済みだし、もちろん「ニーハオ」と、私の隣でしゃがむ中国人女性から明るく声を掛けられたことは何度もある。だんだん、こちらから声を掛けることも恥ずかしくなくなった。慣れとは恐ろしいものである。

 だが、多くの日本人を始め、外国人にとって、汚くて悪臭漂う中国のトイレは恐怖そのもの、できるだけ行きたくない存在だった。だから、外国人(とくに女性)は中国旅行そのものを嫌がった。中国の汚いトイレの存在が観光客を抑止する力さえ持っていたのである。

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