WEDGE REPORT

2017年12月20日

»著者プロフィール
著者
閉じる

中島恵 (なかじま・けい)

ジャーナリスト

1967年山梨県生まれ。新聞記者を経てフリージャーナリスト。主な著書に『中国人エリートは日本人をこう見る』『中国人の誤解 日本人の誤解』(ともに日本経済新聞出版社)、『爆買い後、彼らはどこに向かうのか?』(プレジデント社)、『なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか?』『中国人エリートは日本をめざす』(ともに中央公論新社)、『なぜ中国人は財布を持たないのか』(日本経済新聞出版社)、『中国人富裕層はなぜ「日本の老舗」が好きなのか』(プレジデント社)などがある。

中国人の「メンツ」を賭けて

 なぜ習氏はここまで「トイレ」にこだわるのか。一つは国家全体での生活の質の向上を目指していることが挙げられる。習氏は「トイレは小さい問題ではない。観光地や都市だけでなく、農村でも大衆生活の質の足りない部分を補っていかなくてはならない」と述べている。習氏自身、60年代に陝西省の農村に下放された経験があるが、当時の習氏を知る人たちの証言をまとめた本によると、男女共用で仕切りのないトイレを壊し、自ら男女別々の個室式トイレを作り直した、とある。

 確かに、今でも農村の小学校などではトイレがわずかしかない(あってもニーハオトイレに近い)ことは珍しくない。農村に行けば、いまだにトイレットペーパーもなく、水洗でない場合も多い。私も2年前、貴州省の大学に取材に行ったが、学生寮の共同トイレは、隣との壁はあるものの、高さは1メートルほどしかなく、立ち上がると丸見えの状態で、夜になるとトイレに電気もつかないため、手探りで入らなければならないほど“危険”な状況だった。

 だからこそ進めなければならない「トイレ革命」だが、その結果というべきか、北京や上海では高級ホテルやデパートに限らず、駅や空港のトイレも、思わず「きれいだな」という言葉が口をついて出てしまうほど、きれいになった。床に水もなく、カバンを掛けるフックもあり、安心して腰を下ろせる。センサー式の水道からはしっかり水も出る。とくに北京や上海などの空港は外国人の利用が多いせいか、常にきれいな状態であり、手を拭くための厚手のペーパーや、トイレットペーパーも完備されている。

上海のショッピングセンターのトイレ。鏡の横に手を拭くペーパーが設置されている

 しかし、内陸部との格差が激しいことが問題であり、それを是正していくことが国全体の文化レベルの向上、民度の向上にもつながると考えているのだろう。中国人の海外旅行は爆発的なブームとなっているが、海外のトイレを見て歩き、自らの国を振り返ると、その質の違いに愕然とする人も多い。2015年は日本で温水洗浄便座を“爆買い”することが大流行し、その後、自宅に設置する人が増えた。こうした海外旅行での「トイレ体験」もまた、中国のトイレを何とかしよう、という後押しになっている。

 このようなことから、中国人の「メンツ」を賭けて、外国人から後ろ指をさされないよう、もっとトイレをきれいにしていこうという考え方も広まってきているのではないだろうか。これも経済的に豊かになり、生活のゆとりによって生まれたものであり、今後、こうした流れはますます加速していくのではないかと考えられる。

 しかし、そうした流れとは別に、北京では、トイレットペーパーの前のカメラに顔を映すと、自動的に約60センチの紙が出てくる「顔認証」(トイレットペーパーを不正に大量に持ち去る人がいるから設置されたシステム。もう一度紙をもらうためには9分待たなければならない)システムができたり、臭いがこもらないよう、最新の換気システムを導入したりしているトイレがあるとか。はたまた、24時間、トイレの清掃員が交代で掃除をする、なんていう状況も生まれているらしい。上海では「最も美しい観光トイレコンテスト」も行われたそうだ。

 何事も極端というか、どこかでクスっと笑ってしまうところがあるのが、いかにも中国のトイレらしい。これから中国のトイレがどんな“進化”を遂げていくのか、どんな、とんでもないトイレが出現するのか、今から気になって仕方がない。

  
▲「WEDGE Infinity」の新着記事などをお届けしています。
 

『なぜ中国人は財布を持たないのか』(中島恵、日本経済新聞出版社)

編集部おすすめの関連記事

関連記事

新着記事

»もっと見る