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2017年12月28日

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藤原章生 (ふじわら・あきお)

毎日新聞記者

1961年、福島県生まれ。北海道大学工学部卒業後、住友金属鉱山に入社。89年に毎日新聞社に入り、ジャーナリズムの道へ。92年に外信部に所属し、 93年にメキシコ留学。帰国後の95年から南アフリカ・ヨハネスブルグでアフリカ特派員、2002年からは、メキシコ市支局長、ラテンアメリカ特派員。08年〜12年までローマ支局長。5 年半に渡るアフリカ特派員時代の取材を元にした著書『絵はがきにされた少年』(集英社文庫)で05年の開高健ノンフィクション賞受賞。著書に、『世界はフラットにもの悲しくて』(テン・ブックス)、『資本主義の「終わりの始まり」―ギリシャ、イタリアで起きていること』 (新潮選書)、『ギリシャ危機の真実 ルポ「破綻」国家を行く』(毎日新聞社)『翻弄者』(集英社)、『ガルシア=マルケスに葬られた女』(集英社)。

 その人は歩き方からして違っていた。歩幅が短く、ややうつむき加減にゆっくり歩く。薄氷を歩くかのようだ。「さあ、こちらへどうぞ」と勇んで自分の仕事を披露するものと予想していたが、どこか臆するところがある。どうしてなのか。

想像以上に繊細な鶏

 「宮崎の養鶏を見に行きませんか」。以前、大学生の就職活動の記事を書くためお邪魔した外食企業「エー・ピーカンパニー」の広報の人に誘われ、この冬、宮崎県日南市を訪ねた。羽田から宮崎空港へ飛び、日南市に入ると、養鶏家の松浦大季さん(25)が軽トラックで駅まで迎えに来てくれた。

 松浦さんが営む「松浦農場」の手前で消毒済みの白い長靴に履き替える。林道を進むと、ほどなく鶏の声が聞こえてきた。成長に合わせて4カ所ほどに分かれた鶏舎に鶏の姿が遠望できる。

 松浦さんはそこで立ち止まり、「祖父ちゃんがユンボーでみかん山を切り開いてつくった傾斜地なんです」と話してくれるが、なかなか鶏舎に近づこうとしない。

 周囲を鶏舎が囲む位置にあるプレハブ小屋の前で立ち止まると、小さな声で「この中に雛がいます」と言う。見せてくれるのかと待っていると、「45日がすぎたら、あっちの鶏舎に移します」と語るだけだ。たまりかねて「中を見てもいいですか?」とたずねると、松浦さんはちょっと身構えた姿勢になり、「あっ、いいですよ」と言うや、雨戸がわりにしているベニア板をゆっくりと開いた。

生後間もない「みやざき地頭鶏(じとっこ)」のヒナ

 中には保温機の下、何百というひよこがいた。薄暗い部屋に一気に外の光が入ったため、ひよこたちは一斉にピクリと体を動かし、ピーピーと小さな声で鳴いている。

 「写真、いいですか?」「ええ、はい」

 数枚撮ると、松浦さんは再び大事そうにベニア板を下ろした。ベニアがもたらす風圧でそよ風一つ中に入れない動作だ。

 それで合点がいった。松浦さんは雛や鶏に気をつかっているのだ。時折、私たちのような外来者が訪れるが、それは鶏を育てるという彼の職務とは関係のない事態であり、できれば鶏をそっとしておいてやりたいという心情が、彼の態度に表れている。

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