NHK大河ドラマ「西郷どん」の第1回「薩摩のやっせんぼ」(1月7日)は、冒頭に現代の上野が映し出される斬新なスタートだった。石原裕次郎が高杉晋作に扮した、川島雄三監督の代表作「幕末太陽傳」(1957年)が当時の品川の光景を導入部に使っているのを、彷彿(ほうふつ)とさせる。
維新の予兆を幕末にみるのもフィクションの醍醐味
「西郷どん」はいういまでもなく、西郷隆盛の物語である。ドラマは、現代から明治中期に上野の森で開かれた西郷像の除幕式に移る。式に参列した、西郷の三番目の妻である糸(黒木華)が像を見上げて「これはあのひととは違う」という。この言葉は有名である。西郷は写真を一枚も残さなかった。
糸の言葉は、銅像の相貌が西郷と似ていないことを語ったのではないか、と解釈されてきた。ドラマの第2回「立派なお侍」(1月14日)以降の展開を推測すれば、糸の言葉を冒頭に持ってきているのは、西郷の一言ではいえない、二重三重の複雑な人物像を描いていこうという意図を表しているのではないか。
原作は林真理子、脚本は中園ミホである。ドラマは現代の視点から幕末を照らし出し、歴史の転換期に女性を背景としてではなく表舞台で描こうという意欲があふれている。
薩摩藩の武士階級は、町ごとに「郷中」という組織をつくって、年長の青年が若年者を文武両道にわたって育て上げていた。第1回「薩摩のやっせんぼ」では、少女時代の糸(黒木)が少年のかっこうをして、西郷が若年者のリーダーとなっている郷中にまぎれこむ。剣の修業と勉学を志したからである。
のちに藩政を主導する島津斉彬(しまづ・なりあきら、渡辺謙)と西郷の出会いも早々に描かれている。少女が郷中に入るのも、少年時代の西郷と斉彬が出会うのも史実とは異なる。そこはドラマである。怒涛の維新の時代の前史として、維新の予兆を幕末にみるのもフィクションの醍醐味(だいごみ)だろう。