前向きに読み解く経済の裏側

2018年2月5日

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塚崎公義 (つかさき きみよし)

久留米大学商学部教授

1981年、東京大学法学部卒業後、日本興業銀行(現みずほ銀行)に入行。主に調査関連部署に勤務した後、2005年に銀行を退行して久留米大学へ。著書に『増補改訂 よくわかる日本経済入門』(朝日新書)、『老後破産しないためのお金の教科書』(東洋経済新報社)、『世界でいちばんやさしくて役立つ経済の教科書』(宝島社)、『なんだ、そうなのか! 経済入門』(日本経済新聞出版社)など多数。

 「日銀の異次元緩和は、当初こそ偽薬効果で役に立ったけれども、今は効果より副作用の方が大きいのだから、止めるべき」と筆者は主張しています。「そんなことをすればデフレに逆戻りしてしまう」という御批判を数多く頂いていますので、反論しておきます。

(Eyecandy Images/iStock)

貨幣数量説的なインフレは起きていないから戻らない

 「日銀が異次元緩和をやめたらデフレに戻る」という人々の論拠が不明ですが、筆者なりに推測すると、以下の2通りです。第1は、素朴な貨幣数量説、第2は「金融緩和が景気を回復させ、景気回復がデフレを止めたのに、その流れが逆転してしまう」というものです。

 素朴な貨幣数量説というのは、「世の中に出回っている資金の量が増えると物価が上がり、減ると物価が下がる。ダイヤモンドが水より高いのは希少だからである。それと同じで、世の中に資金が出回れば物の方が資金より希少になり価値が上がるのだ」というわけです。

 つまり、「異次元緩和で世の中に資金が出回ったから、世の中の資金と物の比率が変わり、物の値段が上がった。異次元緩和をやめると、世の中に出回る資金が減るから、物の値段が下がるはずだ」というわけですね。

 これは、全くの誤りです。統計を見れば明らかなように、世の中に出回っている資金(マネーストック)は増えていないからです。黒田緩和によって日銀から銀行に出て行った札束は、世の中に出て行くことなく、日銀に送り返されて準備預金(銀行が日銀に持っている預金口座)に入金されてしまったからです。

 では、第2の経路はどうでしょう。異次元緩和で景気が回復したのは確かですが、それはなぜだったのでしょうか。

そもそも金融緩和が効くのは金融市場が動く場合のみ

 そもそも金融の緩和は、景気を回復させる力が強くありません。工場の稼働率が低い時に「金利が下がったから、新しい工場を建てよう」と考える企業は稀だからです。企業が設備投資をしようか否かを判断する際の最大の材料は「投資をすれば儲かるか否か」であって、金利ではないのです。

 まして、金利がゼロの時に日銀が金融を緩和しても、企業の設備投資が増えるわけではありません。短期金利は下がりませんし、長期金利も僅かに下がるだけですから。

 今回、金融緩和が景気を回復させたのは、株やドルの値上がりを通じてです。株高やドル高になったから景気が回復し、デフレが止まったのです。そうであれば、「異次元緩和をやめれば株とドルが暴落する」のか否かが、デフレが再発するか否かを左右することになります。筆者は、株もドルも暴落しないと考えているので、デフレは再発しないと考えています。以下は、そう考える理由です。

黒田緩和は偽薬だった

 黒田日銀総裁が就任した時、多くの投資家が「これで世の中に大量の資金が出回るから、株やドルが値上がりするだろう」と考えて、株やドルを買いました。それにより株やドルが値上がりして、景気が回復したのです。

 しかし、実際には世の中に資金は出回りませんでした。日銀の金庫から銀行まで出て行った札束は、そのまま日銀に送り返されて「準備預金」に入金されてしまったからです。

 医者が患者に小麦粉を渡し、「良い薬だ」と言うと、患者の病気が治癒することがあり、「偽薬効果」と呼ばれています。今回の黒田マジックは、まさに偽薬効果だったわけです。

 偽薬効果は、患者が薬だと信じているから病気が治癒するわけで、皆が偽薬だったと知ってしまったら、続ける意味がありません。小麦粉の大量摂取だって副作用がありますから、止めるべきです。それと同じで、不況や失業という病気は治癒しており、しかも世の中にお金が出回らなかった事も皆が知っているわけですから、異次元緩和はやめても構わないわけです。異次元緩和にも少しは副作用がありますから、そろそろ出口戦略を真剣に考えるべきだと筆者は思っているわけです。

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