チャイナ・ウォッチャーの視点

2011年2月10日

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 先月来、世界中のチベット・サポーターの気を揉ませているニュースがある。日本の一部メディアでも報じられたが、12年前チベットからインドへ亡命した若き転生ラマ(活仏)、カルマパ17世に「スパイ疑惑」が浮上、インド当局が捜査に乗り出したのだ。

 少し前になるが、筆者は2009年11月、インドでカルマパ17世に単独インタビューを許されていた。そのときの模様を交え、今回のニュースを読み解いてみることとしたい。

カルマパ17世っていったい誰?

「ダライ・ラマ14世法王」といえば、昨今は日本の巷でも多くの方がご存知だ。「では、パンチェン・ラマをご存知?」と聞くと正答者は急減する。

 とはいえ、2008年春のラサでのデモ弾圧後の集中豪雨的なチベット報道を通して「少しは知っている」という人も増えた。パンチェン・ラマが、ダライ・ラマに次ぐ高僧であること、あるいは、チベット側が認めたパンチェン・ラマ11世が幼児期に中国当局によって拉致され今日まで行方不明だということ、これに対抗して、中国共産党が独自のパンチェン・ラマ11世を選び出していることなどを知る人もいる。

 ところが、こういう方に、「では、カルマパ17世をご存知?」と聞くと、いわゆる「チベット好き」という人を除けば大半の日本人が知らない。

 それほど、カルマパという名はこれまで日本の報道には乗らなかった。

 御年25歳。亡命チベット社会の次代のホープとも目される、若きカリスマ・ラマ。カルマパ17世は今や、ダライ・ラマ14世法王に次いで、世界のチベット・サポーターの注目を一身に集める存在である。

 と同時に、あの中国共産党政府が「最も怖れる存在」の一人だともいわれてきた。

 2009年秋、筆者は、そんなカリスマへの単独での謁見、インタビューの機会を得た。その内容や様子を書く前に、カルマパ17世について、もう少し説明しておきたい。

 「カルマパ」とは、チベット仏教四大宗派の一つ、カギュ(黒帽)派の最高位の僧である。ちなみに、ダライ・ラマ、パンチェン・ラマは別の宗派である、ゲルク(黄帽)派の最高位の僧で、チベットでは伝統的にこのゲルク派の二人の僧が聖俗両方の最高指導者となってきた。

 カルマパ17世は、別の宗派の17代目の転生者である。

 17世は1985年6月、チベット・カムの遊牧民を両親に生まれ、92年、7歳のときに、米国で亡くなった先代の“生まれ変わり”として見いだされた。

 チベットには「転生ラマ」は少なくないが、カルマパ17世はとにかく特別な存在だ。

 なぜなら、彼は、チベットが中国の侵略・支配を受けてのち初めて現れた、宗派最高位の転生者であった。しかも、チベットの四人の高僧による選定を、インドに亡命中のダライ・ラマ法王が承認し、さらにその決定をあの中国政府も受け入れ、追認したという存在だったからである。

 つまり、チベット・中国双方が認めた唯一の転生ラマであったのだ。そのためか、このカルマパ少年を、無神論者の中国共産党政府は、異様なまでに厚遇していた。

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