前向きに読み解く経済の裏側

2018年4月2日

»著者プロフィール
閉じる

塚崎公義 (つかさき きみよし)

久留米大学商学部教授

1981年、東京大学法学部卒業後、日本興業銀行(現みずほ銀行)に入行。主に調査関連部署に勤務した後、2005年に銀行を退行して久留米大学へ。著書に『増補改訂 よくわかる日本経済入門』(朝日新書)、『老後破産しないためのお金の教科書』(東洋経済新報社)、『世界でいちばんやさしくて役立つ経済の教科書』(宝島社)、『なんだ、そうなのか! 経済入門』(日本経済新聞出版社)など多数。

 米国は、中国が知的財産権を侵害しているとして、対中制裁関税を課することを検討しています。「知的財産権の侵害をやめろ」「米国の対中国貿易赤字を1000億ドル減らせ」「そうしないと、600億ドル相当の対中輸入に高い関税をかけるぞ」と言っているわけです。

 それと並行して、鉄鋼とアルミニウムの輸入を制限する措置を発動しています。トランプ大統領が支持者である製造業労働者のご機嫌をとっているが、それは米国や世界の利益にならない、というのが一般的な理解でしょう。経済学の教科書を読めば、誰でもそう考えるでしょう。しかし、本当にそうでしょうか。

(Sergio Lacueva/iStock)

米国は、韓国から譲歩を引き出した

 上記とは別に、米国は韓国との間でFTA(自由貿易協定)の再交渉を行って、妥結しています。韓国のウォン安誘導を禁じる為替条項を盛り込むなど、米国の圧勝と言えるでしょう。その背景には、トランプ大統領が米軍の韓国からの撤退をほのめかすといった強面の交渉姿勢があったようです。

 このあたりは、トランプ大統領が商売人である事による交渉術なのでしょう。本当に米軍を引き上げる用意があったのか否かは筆者にはわかりませんが、「交渉が成立しなければ、俺はお前と喧嘩する。喧嘩になれば、俺の痛みは1、お前の痛みは10だ」と言って脅すことにより、相手が折れれば、「戦わずして勝つ」ことが出来るのですから、極めて有効な戦略と言えるでしょう。

 ただし、この戦略が成功するためには、相手が「あいつだったら本当に喧嘩を始めるかもしれない」と怯えることが必要です。米国の大統領が「普通」だったら、「韓国との喧嘩で1でも痛みが生じるなら喧嘩はやめよう」と思うでしょう。韓国からそれを見透かされたら、米国の交渉は失敗したでしょう。でも、米国の大統領がトランプ氏であったため、韓国はビビったのです。

対日鉄鋼輸入制限も、交渉の道具と理解

 トランプ大統領は、鉄鋼の輸入制限の相手国として、日本を適用除外していません。「日本は同盟国なのに、バカにされている」等々のコメントが聞こえて来ますが、筆者はそうは思いません。

 第一に、日本の対米鉄鋼・アルミニウムの輸出額は年間2000億円程度と少額です。したがって、仮に発動されても日本経済への影響は極めて限定的です。それで日米関係が大きく悪化することはなく、トランプ大統領としては「同盟国であっても巨額の対米貿易黒字を稼いでいる日本は課税対象にした」という断固たる措置を支持者にアピールできるわけです。

 もちろん、日本が様々なお土産を持って訪米して課税の撤回を願い出るのを待っているだけだ、という可能性も大きいでしょう。その場合でも、「日本から大幅な譲歩を引き出した」と支持者にアピールできるので、大満足でしょう。

 現在の国際情勢を考えても、米中が長期的な視野での軍事的な緊張を強めつつあり、日本の同盟国としての重要性が長期的に増していくことが明らかな時に、本格的に日本との貿易戦争を戦って日本の世論を反米にするのは得策ではありません。したがって、日米は「適度な落とし所」を水面下で探っているということだと思われます。

編集部おすすめの関連記事

関連記事

新着記事

»もっと見る