オトナの教養 週末の一冊

2018年5月11日

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本多カツヒロ (ほんだ・かつひろ)

ライター

1977年横浜生まれ。2009年よりフリーランスライターとして活動。政治、経済から社会問題まで幅広くカバーし、主に研究者や学者などのインタビュー記事を執筆。現在、日刊サイゾーなどに執筆中。ブログ:http://golazo-sala.cocolog-nifty.com/pinga/

――まさにグローバル化が進んでいるとも言えますね。グローバル化がさらに進み、日本も移民社会になるのではないかと言われています。川崎を通して感じる多文化共生社会の問題点は?

磯部:本書でふれあい館の職員の鈴木健さんが語っているのは、日本語が話せない子どもたちの問題です。フィリピンから働きにやってきた女性が、川崎で生活の基盤を築いたので、本国に残してきた子どもを呼び寄せる。ただ、子どもの方はいきなり友達もいない、言葉も分からない環境に放り込まれるので落ち込んだり、中には非行に走ってしまうケースもある。暴力団がそういった子どもの受け皿になってしまったこともあります。あるいは、工場で働くとあまり日本語を使わなくても済むので、プライベートでも同胞とばかりつるんで、地域社会にほとんど溶け込めなかったり。ただ、そのまま成長していくと生き方が限られてしまうので、ふれあい館では日本語学習サポートも積極的に行っているわけです。

――日本のブラジルとも言われる群馬県の大泉に行ったことがあるのですが、そこでは八百屋の品物にポルトガル語表記がありました。

磯部:川崎市のホームページには「がいこくじんのかたへ」というコーナーが分かりやすく表示されていますが、そこでは漢字はもちろん、カタカナにもフリガナが振ってあります。お母さんは日本語をあまり喋ることが出来なくて、日本で生まれた子どもは逆にお母さんの国の言葉が分からないので、親子で断絶が生まれてしまうというケースも問題になっています。

――貧困地区を訪れるスラム・ツーリズムという言葉があります。これについてはどう考えていますか?

磯部:本書の中でも論じていますが、スラム・ツーリズムが一概に悪いとは言えません。地元が主宰しているケースもありますし、それを通して問題意識を深めてもらうことも出来るでしょう。外からの興味本位の視線を内面化し、アイデンティティを形成している地元の子どもも多いという複雑な問題もあります。ただ、スラム・ツーリズムの対象となるのは実際に人が生活している場所です。勝手に写真を取ってネットにアップするような一方的な暴力は、当然、許されるわけはありません。

――最低限のマナーを守ることが大事だと。オススメの場所はありますか?

磯部:川崎の工場地帯は工場好きの人たちに人気で、既に観光地化しています。川崎駅前でタクシーを拾えば、運転手さんたちは慣れたもので、お薦めのルートを案内してくれるでしょう。

 あるいは、臨海部を訪れてみたい人はご飯を食べに行くと良いと思います。もともとは在日コリアンの集住地域だったので、美味しい焼肉屋さんもたくさんありますし、中華料理やペルー料理など様々な国の料理を楽しめます。地元の若者がソウルフードと呼ぶニュータンタンメンも是非。

――6刷りまで売れて反響も大きいと思います。

磯部:賛否両論あります。地元の方の感想でも「よくぞ書いてくれた」「問題提起してくれた」というものもあれば、最初の方で言ったように「川崎の極端な面ばかり取り上げている」「何故、悪い面ばかり書くのか」というものもあります。取材を始めた当初、BAD HOPのメンバーは「川崎のことなんか書いて本になりますかね?」「オレたちにとっては当たり前のことだし」と言っていました。ただ、彼らに対しても反響が大きかったらしく、川崎の話を皆が知りたがっていることに驚いていました。

 確かに、川崎の臨海部という非常に狭い地域の中でも、さらに、過酷な状況にいる人々について書いた本ではあります。ただ、それが象徴性を帯びるようにはしたつもりです。ここで起きていることは極端に思えるかもしれませんが、日本全国で起きていること、あるいは将来起きるであろうことを象徴しているのではないかと。川崎で起きている子どもや移民の問題は、自分たちの身近にはない問題だからと切り捨てられる話ではありません。だからこそ、いろいろな方に手にとってもらえると嬉しいですね。

  
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