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2018年5月18日

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中西 享 (なかにし・とおる)

経済ジャーナリスト

1948年岡山県生まれ。72年共同通信社に入社。88年から91年までニューヨーク特派員、経済分野を取材し、編集委員を経て2010年に退社。現在は経済ジャーナリスト。著書は「ジャパンマネーの奔流―ニューヨーク・東京・ロンドンの24時間」(1987年、ダイヤモンド社)、「日本買い 外資は何を狙っているか」(2005年、PHP研究所)など。

 企業経営者は従業員のうち一定比率の障がい者を雇用しなければならない。オフィスや工場の中で障がい者に働いてもらう場を見つけることは容易ではなく、半数の企業が雇用比率は未達。その難題を解決策しようと、企業に成り代わって障がい者が喜んで働ける場を会社の外で提供している会社がある。

 しかし、障がい者雇用対策を行う厚生労働省は、あくまで当該企業の下での雇用が望ましいとみている。一方で、会社中で障がい者の能力を生かして働ける場所を見出している企業もある。障がい者雇用の現場をリポートする。

「スワン」の従業員(ヤマトホールディングス提供)

雇用比率引き上げ

 厚生労働省は「障害」に関係なく希望や能力に応じて働ける「共生社会」の実現を目指して、「障害者雇用促進法」により民間企業や国や地方公共団体に対して一定比率の法定雇用率を義務付けている。従業員が50人以上の企業は、従業員の2.0%以上の割合で障がい者を雇用しなければならかったが、今年4月1日からこの割合が2.2%に引き上げられ、対象となる企業の従業員は45.5人以上からと拡大される。さらに3年後には雇用比率が2.3%にまで引き上げられることが決まっている。

 引き上げの理由は、精神障がい者が増えているのに加えて、「障害者就業・生活支援センター」のような地域での障がい者の就労支援体制が充実し、企業内でも精神障がい者を雇用するためのノウハウが蓄積され、社会全体で障がい者雇用を進める環境が整ってきているためだ。このため経営者としては、障がい者雇用義務がこれまで以上に課せられる。民間企業に雇用されている障がい者数は14年連続で過去最高を更新しており、2017年6月1日現在で49万6000人で、雇用率は1.97%、法定企業雇用率達成割合は50%と改善してきている。しかし、数でみると半分の企業が未達になっている。

 障がい者雇用比率が未達の企業は、従業員規模の小さいほど多い。大企業では障がい者雇用のための別会社(全国で約460社)を設立しているところが多く、工場やオフィスの仕事の中から、障がい者に合った仕事を見つけやすいが、中小企業や販売会社の場合はふさわしい仕事を見つけるのが難しいという現実がある。

農園で働いてもらう

「わーくはぴねす農園 船橋ファーム」(以下、同)

 そうした中で、障がい者を働かせる場を見つけられなくて困っている企業に対して場所を提供するビジネスを展開している会社がある。エスプールプラス(東京・千代田区)という企業で、いままで就職経験のない重度知的障がい者が働ける場が見つからない企業と契約をして、同社が運営する農園を企業に区分けして貸し出す。知的障がい者を中心にビニールハウス農園で働いてもらい、レタスなどの野菜を栽培する。企業は農園の利用料などを払い、障がい者をその農園で雇用しているとみなされる。

 

 千葉や愛知県に10カ所の農園を開き、193社の企業の障害者約900人がここで働いている。現地を見に行くと、農園ではビニールハウスの中に30メートルほどのレーン(畝)があり、軽石が敷き詰めている。養液栽培のため手が土で汚れることもなく、清潔感の中での作業ができる。この一つの畝を使って3人一組の障がい者に1人の監督者が付いたチームが野菜などを育てている。ノルマはなくストレスを感じることなく作業ができるためか、笑顔が多く見られた。

 

 夏場はハウスの中は高温になるため、作業時間は極力短くするなど、作業環境にも極力配慮している。できた作物の大半は障害者の所属する企業従業員の福利厚生のために無料で配布しており、売り物にはしていない。

 気になる経費負担は、例えば重度障がい者1人、軽度障がい者2人を雇用した場合、企業にとっては月つき支払う給料や利用料を含めて1人当たりの雇用負担が月18万になる。また障がい者仕様の養液栽培装置などの初期投資は約300万になるがリースにできて経費で落とせるので毎月の負担は3万円ほどになり、月別の経費として計算すると企業内で障がい者を雇用するよりも節約になるという。

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