WEDGE REPORT

2018年6月6日

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エビのサイズも拡大
光差した赤泊の漁業

 もう一つの施策が「夏季禁漁期間の解禁」だ。佐渡のホッコクアカエビ漁では、1970年から7~8月を禁漁期間としていた。「夏は保存が効かないから」、「夏季は兼業でスルメイカ漁をしていた名残」と理由は諸説あるが、ともあれ個々の年間の漁獲量が決まっているのだから、産卵期間でもない夏に禁漁する意味はない。この解禁により、島内の他の漁港では供給が途絶える時期に、赤泊のみがホッコクアカエビを市場に提供できるようになった。

 大前提である資源保護のための手も打たれた。エビ篭の網目の幅を32ミリから34ミリに拡大し、商品価値の低い小エビの乱獲を防いだ。結果としてサイズごとの銘柄「大・中・小・小小」のうち最後の「小小」については2015年には漁獲量がゼロになり、逆に「大」については冒頭にあったように割合が増加、17年には54%に達している。そしてこれが、ホッコクアカエビのキロ単価上昇に寄与しているのである。

 無論、TACにより漁獲量を制限するため、漁業者が経営難に陥るリスクもあった。篭の網目拡大にも漁具を新しくするための費用がかかる。そこでモデル事業においては低金利融資制度と、漁具更新を一部負担する補助金が用意された。しかし融資については利用はなし。漁具更新の補助金も4年間で県が1070万円、佐渡市が585万円の負担で収まった。

 赤泊のホッコクアカエビ漁でIQ方式が導入されて、約6年半。IQ方式導入以後に冒頭の第五星丸で働いている乗組員に話を聞くと「他の地域では給料が歩合制のところもあるが、ここは固定給だ」、「元はトラックドライバーだったが、ここの方が良い条件だ」と、IQ方式による恩恵が乗組員にまで行き渡っている様子がうかがえる。古参の乗組員は「希望が見えてきた」と、笑顔で語った。資源・人材ともに減りゆく日本の漁業とは対照的な光景だ。

IQ方式実施に適した
〝密閉された実験室〟

 前述のように赤泊のIQ方式による資源管理に、大きな問題点は見当たらない。しかし11年からのモデル事業開始以後、県内で赤泊に続いてIQ制度を導入する動きはない。

 取材を進める中で見えてきたのは、赤泊がIQ方式導入に非常に適した、特殊な環境であったことである。

 そもそもなぜ、対象としてホッコクアカエビが選ばれたのか。新潟県における漁種別の漁獲金額(08~12年の平均)で、ホッコクアカエビは5位と、非回遊魚の中ではトップであり、ベニズワイガニも上回る重要な魚種だった。ポイントは非回遊魚、つまり移動が元々少ない生物である点だ。資源が漁場から移動しなければ、資源評価もしやすく、何より資源保護のインセンティブも現地の漁業者に芽生えやすい。

 その点で、赤泊のホッコクアカエビは理想的な条件下にあった。赤泊のエビ篭漁業者が漁場とする佐渡海峡の海底はお椀(わん)状に窪(くぼ)んでおり、深海性のホッコクアカエビにとって浅い海域の海水温が壁となり、IQ方式実施エリア外への資源の移動がほぼない状況だったのだ。

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