世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2018年7月10日

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 6月22日付のProject Syndicateのサイトに、フィッシャー元ドイツ外相が、「トランプの中国への贈り物」と題し、トランプ大統領がやっていることは、結局は、中国を資することになるとの論説を寄せている。その要旨を紹介する。

(colematt/twentyfourworks/iStock/Getty Images Plus)

 21世紀に新しい世界秩序が打ち立てられようとしているが、いまだ不確かで不安定であり、西側諸国は、古いナショナリズムに捕らわれ、十分に対処できずにいる。

 今年、カナダのケベック州で開催されたG7サミットでも、それは明らかだった。地政学的な西側は意味をなさなくなり、世界的な重要性を失った。米国が創設し指導してきた秩序を壊したのは米国の大統領だった。

 西側の問題は、冷戦崩壊に起源を有す。これまでの米ソ二極化が経済のグローバリゼーションにとって代わり、中国のような新興諸国が台頭した。

 米国は、同盟諸国を負担にさえ思ってきた。欧州に対してのみならず、日本や韓国、さらには隣国のカナダやメキシコに対してさえ、米国は厳しくなった。鉄鋼・アルミニウム関税を課したことは、米国とカナダ間に政治的亀裂を生むことにもなった。

 4世紀にわたり、欧州と北大西洋が世界経済を占めていたが、もはやそのような時代ではない。中心は大西洋からアジア太平洋に移り、地政学が大きく変わろうとしている。

 米国が世界の超大国として居続けるにしても、中国が地政学的に大国として台頭してきた。14億人の人口と巨大市場を抱え、中国は既に、経済的、政治的、技術的指導者として、米国に挑戦している。

 米国はオバマ政権時代から「アジアへの軸足」回帰という政策を出して、この地政学的変化に対応しようとしてきた。トランプ大統領は、単にそれをシンガポールで米朝首脳会談をおこなって実行した。

 トランプ政権の諸政策には、重大なリスクがある。何故ならそれらは自己矛盾を抱え、不必要に破壊的だからだ。イランとの合意からの離脱は、地域を不安定化させているし、何も得られないまま北朝鮮の孤立を緩和させたことは、中国の東アジアにおける地位を高めてしまった。

 同様に、トランプの世界的貿易戦争は自滅的である。同盟諸国に関税を課すと、諸国は中国の方に行ってしまう。TPP(環太平洋連係協定)にしても、中国に対抗して米国中心の太平洋地域を模索したものだったが、トランプは離脱してしまった。

 「アジアへの軸足」回帰で、欧州と米国は別々の方向へ進むことになった。欧州は東のユーラシア大陸へ、米国は西の太平洋へと進む。この中で、唯一の勝者は中国である。トランプの政策は、「中国を再び偉大な国にする」ことに寄与することになる。

出典:JOSCHKA FISCHER ‘Trump’s Gift to China’, (Project Syndicate, June 22, 2018
https://www.project-syndicate.org/commentary/trump-gift-to-china-by-joschka-fischer-2018-06

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