使えない上司・使えない部下

2018年7月20日

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吉田典史 (よしだ・のりふみ)

ジャーナリスト・記者・ライター

ジャーナリスト。1967年、岐阜県大垣市生まれ。2006 年から、フリー。
主に、人事・労務分野で取材・執筆・編集を続ける。『悶える職場』(光文社)、
震災死』『あの日、「負け組社員」になった…―他人事ではない“会社の落とし穴”の避け方・埋め方・逃れ方』(ダイヤモンド社)『封印された震災死』(世界文化社)など。

 今回はクリエイティブディレクターで、WEBデザイナーの木下謙一さんに取材を試みた。木下さんは、ウェブ制作やメディア戦略コンサルティングを手がけるラナデザインアソシエイツ(東京都港区)の代表取締役社長を務める。

 同社は、インターネットやデジタル分野での企画提案、デザイン、技術、管理などの部門で成り立ち、グループ会社の4社と協力し、制作活動を続ける。

 木下さんが1997年に創業し、資生堂やNHKをはじめとするナショナルクライアントのWebサイトなどを多数制作してきた。2003年には国際広告賞「NYフェスティバル」、2007年と2015年にはグッドデザイン賞などを受賞した。現在は、社員数がラナデザインアソシエイツで50人、グループ全体で100人を超える。

 創業期から、業界の古い体質の会社とは一線を画す試みをしてきた木下さんにとって「使えない上司・使えない部下」とは…。

クリエイティブディレクター・WEBデザイナーの木下謙一さん。ラナデザインアソシエイツ代表取締役社長

あのスタイルでは人は育たないし、
会社も大きくはならない

 この業界にはたとえば、銀行やメーカーとはやや異なったスタイルの会社があります。その一つが、クリエイターとしての“大先生”が社長をしている会社です。

 大先生のキャリアパスはたとえば、芸大や美大を卒業し、大手広告会社のA社やB社などに新卒として入社するところから始まります。クリエイティブ局などに籍を置き、クリエイターとして10年ほど活躍し、名が通った賞をいくつか受賞する。30代前半~30代半ばで退職し、会社を設立し、何らかの賞をとる。アシスタントとして2~3人を雇い、クリエイターの見習いをさせる。しだいに5~6人と増やし、組織を大きくして、社員10人前後の会社にする。

 こういう会社では、優秀でない人をバンバンと辞めさせてしまう場合があります。大先生を超える人材がなかなか現れないとも聞きます。大先生はある時期になると、会社を解散させてしまうこともあります。しばらくすると「ああ、そんな人もいたね」と一部で話題になるものの、いつしか、名前も忘れさられます。

資生堂の銀座本店「SHISEIDO THE STORE」のWebサイトと紹介動画を制作。

 広告代理店を独立し、大先生になっていくキャリア形成を全否定するものではないのですが、これからの時代は難しいのではないか、と僕は思っています。むしろ、システマチックに組織を動かすことで、会社として、チームとしてクリエイティブな仕事をできるようにしたかった。これは創業した1997年から、今に至るまで大切にしていることです。僕も美大(武蔵野美術大学 基礎デザイン学科)を1992年に卒業しましたが、広告会社には興味があまりなく、採用試験も受けていません。規模がやや大きいデザイン会社などに籍を置き、キャリアを積んできました。いわゆる、徒弟制度的なもとでデザインなどを学んだ経験がほとんどないのです。

 実は、大先生のようにしようと思うことがありました。経験の浅い人に教えていると、じれったくなり、「もういい! 俺がやる」と言いたくなります。たしかに、ひとりで仕事を進めてしまったほうが速い場合もあるのです。会社としての利益率も、ある時期までは高いのかもしれません。

 だけど、僕は大先生のようにはなりたくなかった。社員が10人ほどになったときから、管理職の育成に力を入れてきました。僕の代わりに、経験の浅い人に教え、育てあげる人材をつくろうとしたのです。僕が最前線にいると、組織をつくることができませんから。取り組んだのは創業後、数年経った頃でしたが、管理職を育てるのは本当に難しい。社員が100人ほどになった今でも、大変です。会社を解散して、自分ひとりでクリエイターしていようと思ったこともあります。そのほうが、精神的に楽に感じましたから…(苦笑)。

 育成するうえでは、まず、僕と管理職たちの間で役割分担をして、権限を彼らに与えてきました。プロジェクトが上手くいっていないときは、管理職につい言いたくなることがあります。そこをこらえないと、組織をつくることができないのです。個々のプロジェクトに介入することはできるだけ、避けています。個々の力を信じるようにしているのです。管理職や一般職の社員を「使えない」とは言いませんね。レッテルをはることになり、成長が止まってしまいかねないですから。

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