また、日本の国会での論議では、他国の領域で戦闘行動をするために自衛隊を派遣することを「武力行使」と呼んでいますが、これも国際社会の常識と違います。たとえ目的が人道的支援や補給活動であっても、他国の領域内で戦闘行動を補完するこれらの行為は、国際社会においてすべて「武力行使」と見なされているのです。
国際社会に向けた説明が重要
──それでは、国際常識に従って自衛隊を軍隊と認め、交戦規則を定めたうえで自国民の救助に派遣すれば、何の問題もないということでしょうか。
吉原氏: じつは、それだけでは十分と言えません。内戦状態にある国家の政府当局や反乱勢力が、他国の軍隊による自国民の救出を認めていれば国際法上何の問題もないのですが、他国の軍隊による救出を認めないケースのほうが多いのです。なぜなら、支配力の弱さや治安の悪化を国際社会に知られることを彼らは嫌がりますし、自分たちの勢力下にある主要諸国民は取引材料にもなります。
承認を得ないまま軍隊を送り込むことに対し、「国連憲章違反」と解釈する国際法学者は日本のみならず、欧米主要国にも多いのが実情です。しかし実際、欧米主要国の政府はこれまで何度も軍を派遣して救出作戦を実行してきました。危険地域に取り残された日本人の多くも、米国の軍用機によって助けられてきたのです。
この場合、「自衛権」や「基本的人権の尊重」といったものが、国際法上容認される考え方の論拠とされています。自国民の安全を守ることが国家の義務であると考えれば、危険地域にいる自国民を救出しに行くことは、国家にとって当たり前の義務であり、「国連憲章」にも違反しないという考え方です。
ただ、そこはあくまで「大目に見る」といった寛恕(エクスキューズ)の範疇なので、自国民救出のために軍隊を派遣した理由を、国際社会に向けて説明する責任が求められます。具体的には、武力行使に至った状況や使用した軍事手段について、外務省を通じて国連安保理に速やかに報告するということです。これらをセットにすることで、国際的な信用を失わずに自国民救出のために軍隊を派遣することができるようになります。
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