2024年11月25日(月)

Wedge REPORT

2011年5月17日

リビア動乱の際、大使館員が脱出した2月25日以降も、現地には7人の日本人が取り残されていた。全員の出国が完了したのは3月5日。しかも、そのうち6名は韓国企業の手配で出国している。この非常事態に及んでも、日本政府は航空自衛隊所属の政府専用機をリビアに飛ばすことを検討しなかった。(※詳しくは、関連記事 「有事に国民を守れない日本」参照)
このグローバル時代に、今回のリビアのような事態はもはや「想定外」とは言えない。海外で危機に瀕した日本人を自衛隊が救出できるようにするには、どうすればよいのだろうか。国際政治が専門で、国際法に詳しい前拓殖大学教授・吉原恒雄氏に伺った。

──なぜ、リビアに取り残された日本人を救出するために、自衛隊を派遣することができなかったのでしょうか?

吉原恒雄氏(以下、吉原氏): 日本では、1999(平成11)年に自衛隊法が改正され、危機に直面している自国民を救出するため、自衛隊の艦艇や軍用機を使用できるようになりました。ただ、これには「輸送の安全が確保されている場合に限る」という条件が付いています。安全な状況であれば、定期航空便が飛んでいるので、わざわざ自衛隊が助けに行く必要などないはずです。定期航空便やチャーター便が飛べない危険な地域だからこそ、自衛隊が救出に向かわなければならないのに、こんな馬鹿げた法律はありません。

自衛隊法を変えても、イタチごっこは続く

──今、自民党内では、「輸送の安全確保」を要件から外す自衛隊法の改正論議が行われているようですが、これが行われれば、自衛隊が危険な地域にいる邦人を救出できるようになるのでしょうか?

吉原氏: なります。ただ、私はもっと根本的な問題に目を向けるべきだと考えています。それは、自衛隊法という国内法ではなく、国際法の解釈に従って自衛隊の海外派遣を規定すべきということです。自衛隊法には「やってよいこと」しか書かれていません。つまり、そこに書かれていないことはすべて「してはいけないこと」になってしまうわけです。もし自衛隊法が改正され、自国民救出のために危険地域に派遣できるようになったとしても、別の新たな有事が起きれば、またそれに対応するための法改正をする必要が出てきます。これではいつまでもイタチごっこです。有事に備えるには、柔軟な対応ができるように根底から問題を見直さなければなりません。

 そもそも一国の軍隊というのは国際的な存在であり、国際法に従って行動を規定するのが国際社会の常識です。国際法では国際紛争を解決するために「してはいけないこと」を規定していますが、その内容は抽象的で成文化されていないものも多いため、国や学者によって解釈が異なります。そこで各国ごとに「交戦規則」というものを定め、国際法に対する自国の解釈をこと細かく規定し、国際社会に向けてオープンにしているのです。交戦規則というのは法律ではないので、政府によって柔軟に変更することが可能です。日本でも自衛隊の交戦規則を定めたうえで、国際法に従って危険地域の自国民救出を行うのが妥当でしょう。

 具体的には、武力行使の目的を自国民の救出に限定し、目的を達成した後は速やかに撤退する。相手国政府に対する影響を最小限にとどめる、などといったことを規定しておけばよいのです。

日本の常識は、世界の非常識

──しかし、日本の憲法は軍隊の存在自体を認めていません。「自衛隊は軍隊ではない」という認識で、交戦規則を定めることには無理がある気がします。

吉原氏: そもそも、そんな言い訳は国際社会においてまったく通用しません。国際法上、自衛隊は紛れもない軍隊です。軍隊というのは、国際法上「交戦団体」として規定されるかどうかですが、その要件とは、「制服着用」、「公然と武器携帯」、「指揮官の存在」、「戦時国際法の順守」などです。自衛隊はこれらの要件を満たしているので、日本がどんなに強く否定したところで、国際法上の軍隊であることに変わりはないのです。ですから、「自衛隊は軍隊ではない」という、国内でしか通用しないごまかしは直ちにやめるべきでしょう。

次ページ⇒ 国際社会に向けた説明が重要


新着記事

»もっと見る